(6・6)マノン「あたし、あれほど血が波うつとは」

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(6) 6/6

6-6-1彼女のあやまちは水に流すことを約束しはしたものの、それでも私はどんなふうにしてB・・・・・の誘惑にみずからかかったのか知りたく思った。6-6-2彼女が教えてくれたところによれば、窓に寄っていた彼女の姿を見て、彼はすっかり夢中になってしまったのだという。6-6-3そして、恋の告白も司税官らしく、つまり、彼女の愛情に比例して、しかるべく金を支払うと手紙にはっきり書いてよこしたのである。 6-6-4すぐに彼女が降伏したのも、私たちが不自由なしに暮せるほどの、相当の金額を彼から巻きあげる以外にはなんの考えもなかったからだった。6-6-5しかし、彼はすばらしい約束で彼女を眩惑したので、彼女もだんだんぐらついてきた。6-6-6それにしても、私たちが別れる直前、彼女が示したあの苦悩の色によって良心の呵責を察してやるべきだろう。 6-6-7なるほど、彼に囲われて豪勢な生活はしていたが、それでも彼といっしょで楽しい思いなどただの一ぺんもなかったという。6-6-8なぜなら、私のような細やかな感情や、高雅なふうがないばかりか、彼からどんなに贅沢をさせられても、彼女の心底には、いつも私の愛の思い出があり、自分の不貞への悔いがこびりついていたからだったという。 6-6-9彼女はチベルジュのことをもち出し、彼に来られたときの極度の狼狽ぶりを語ったりした。6-6-10「心臓に剣を刺されたって」彼女はつづけた。6-6-11「あたし、あれほど血が波うつとは思われませんわ。6-6-12あの人の前だと、一分だっていたたまらなかったので、逃げ出しちゃいましたの」6-6-13なおも彼女は語りつづけて、私がパリに来たことや、私が僧籍にはいったことや、ソルボンヌの試験のことを、どういう方法で知ったかを説明するのだった。 6-6-14ソルボンヌでの討論のあいだじゅう、彼女はどんなに胸をおどらせたか、涙をこらえるどころか、ともすれば声をたてて泣きくずれそうになるのを、どんなに一生懸命になって我慢したかを、いちいち私に確言するのであった。6-6-15そして、このとり乱した格好を見られまいとして、彼女はあの場所をいちばんしまいに出たこと、自分の心の衝動と、ただ会いたさの一念にかられて、神学校へとまっすぐに来たのも、もし私に彼女を許す気持ちがないと見たらば、彼女はその場で自殺する覚悟だったことなどを語った。 6-6-16かくも熱烈で、かくも心優しい悔悟に心打たれない者が、たとえ野蛮人にもあるだろうか？6-6-17白状するが、私なら、マノンのために、キリスト教界のどんな司教の位だって棒にふるつもりだった。 6-6-18私は、自分たちの今後についてどんな新しい方針をたてたらいいか、彼女にたずねた。6-6-19それには一刻もはやく神学校を出て、もっと安全な場所に身を落着ける必要があると彼女は言った。6-6-20私は彼女の言いなりになった。6-6-21彼女は馬車に乗って、往来の街角で私を待つことにした。6-6-22すぐそのあとで私は門番の目をかすめてぬけ出た。6-6-23私は彼女と同車した。 6-6-24私たちは古着屋へ立ちより、私はふたたび腕章と剣をつけた。6-6-25私は一文なしだったので、マノンが払ってくれた。6-6-26それに、私がサン・シュルビスからぬけ出るのに故障の起ることを心配して、彼女は私が金を取に自分の部屋へちょっとでももどることを許さなかったのである。6-6-27もっとも、私の財産だって知れたものだったし、そんなはした金など目にくれる必要もないほど、彼女はB・・・・・の貢ぎで金持だった。6-6-28私たちはその古着屋で今後の方針について相談した。 6-6-29彼女は私のためにB・・・・・を捨てるにしても、それを一段と価値づけるために、手ごころなどいっさい加えないつもりだと言った。6-6-30「家具は残しておいてやるつもり、だって、家具はあの人のものでしょう」6-6-31彼女は言った。 6-6-32「でも、この二年ごし、あの人から巻きあげた宝石類や六万フランばかりのお金はいただいていくつもりよ。6-6-33それ、当然だもの。6-6-34あの人、あたしのことで口出しなんかできないはずよ」6-6-35彼女はなおもつづけて、「だから、あたしたち、平気でパリにいられてよ。6-6-36どこか手ごろの家を借りて、いっしょに楽しく暮らしましょうね」 6-6-37たとえ彼女に危険はないにしても、私には大いにあることを、私は彼女に思い出させた。6-6-38おそかれ早かれ、私が見つからずにすむわけはなかろうし、ようやくぬぐい去った不幸にこれからまたたえずさらされることにもなるからだった。6-6-39彼女の意向では、パリを離れるのは心残りだった。6-6-40私は彼女を悲しませるのが何より心配だったので、彼女を喜ばせるためなら、どんな危険も平気のつもりだった。 6-6-41とはいえ、私たちは分別のある方法を見つけた。6-6-42つまり、パリの近郊の村に家を借りることにしたわけで、ここからなら、遊びや用事に応じて、いつでも楽にパリへ出られるからだった。

次へ

オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/11

（ささくら修道会規約）当会の用いる聖書は、口語訳聖書、文語体聖書、バルバロ聖書差分の３つに限定する。これ以外の、聖書の引用は異端行為として厳禁される。日本語以外の聖書については、文語体聖書の内容に準じるものとする。異端文例（Today's English Version)世事に迎合した改編文章など異端以外の何ものでもない。（異端：=故意に対立すること）

ささくら修道会の指定聖書：「日本聖書協会　口語訳聖書」に準拠 新約聖書（１９５４年改訳） 旧約聖書（１９５５年改訳） バルバロ聖書（旧約差分）

いろいろ聖書　　ささくら宗の聖書

（修正履歴）