(6・5)マノンの情念に打ち砕かれた僧門の野望

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(6) 5/6

6-5-1彼女は恋の発明したありとあらゆる名前で私を呼んで、自分の最もはげしい愛情を表現しようとつとめた。6-5-2それに対して私はなおまだ無気力に答えただけだった。6-5-3それにしても、なんという変化であろう。これまでのような平穏な状態から、そのきざしの感じられる狂おしい生活に移行しようとは。 6-5-4私は愕然とした。6-5-5夜、人里離れた野中にさしかかったときのように身ぶるいした。6-5-6新しい世界に連れ去られたような気持。6-5-7言い知れぬ恐怖におそわれて、長いあいだ、あたりを見回したあとでやっと安心できるあの気持ちだ。 6-5-8私たちは互いに寄りそってすわった。6-5-9私は自分の手の中に彼女の手をうずめた。6-5-10「ああ！マノン」と、私は悲しい目で彼女をながめながら言った。 6-5-11「ぼくはきみがあのように陰険な裏切りでぼくの恋に報いようとは思っていなかった。6-5-12ぼくのような心をだますなんて、きみにはいともたやすいことなんだろうね。6-5-13きみに喜ばれ、きみに屈従することを唯一の幸福としているような、そんなぼくの心を、きみは絶対的に握っていたんだから。6-5-14さあ、今となっては言ってくれたまえ。6-5-15きみはぼくくらいに優しい、従順な心の持主をほかに見つけたかどうかを。6-5-16いや、いや、自然はぼくの心と同じ質のものなど造らなかったはずだ。6-5-17ねえ、きみはぼくの心をなつかしく思ったときがあるかどうか、せめてそれだけでも言ってくれ。6-5-18きょう、きみはぼくのその心をなぐさめに帰ってきてくれたが、昔にもどったこの好意をぼくはどういつふうに信用したらいいのだろうか？6-5-19きみが以前より美しいことは、もう、ぼくにはわかりすぎるほどわかっている。6-5-20それにしても、きみのせいでぼくがなめたあらゆる苦しみにかわって、マノン、告げてくれ、きみはこれからもっと忠実であってくれるかどうか」 6-5-21彼女は自分の悔いていることをきわめて感動的な言葉で表現し、また、言明と誓約をくりかえして、忠実を誓ったので、私はこのうえもなく心を打たれずにはいられなかった。6-5-22「マノン、おまえは神さまの造った人間としてはあまりにもすばらしい」 6-5-23私は恋と神学の表現法を不敬にも混用しながら、言った。6-5-24「ぼくは自分の心が意気揚々たる快楽に占領されたような気がする。6-5-25サン・シュルピスで言う自由なんて、あれはみんな妄想なのだ。 6-5-26ぼくがおまえのために出世も名声も捨てることは、もう今からわかりきっている。6-5-27ぼくはおまえの美しい目の中に自分の宿命を読むような気がするのだ。6-5-28しかし、何を失おうと、ぼくがおまえの愛でなぐさめられないという法はあるまい。6-5-29運命の恩恵もぼくの心を動かしはしないし、世の栄光もぼくには一条の煙としか思えない。 6-5-30宗門の生活に対するぼくの野望も、みなすべて愚かしい空想だった。6-5-31なぜなら、おまえといっしょに望むような幸福でなかったら、それは取るにも足りない幸福だからだ。6-5-32そんな幸福は、おまえの視線に会ったら、ぼくの心の中に一分だっていすわっていることなどできまい」

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/11

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