(6・3)騎士を捨て僧侶を目指したものの

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

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6-3-1父は私が例の邪念から完全にさめたと信じていたので、機嫌よく出発させてくれた。6-3-2私は十字軍隊の十字章をはずして僧服をまとい、騎士グリュウというかわりに、僧侶グリュウを名のった。 6-3-3私は勉学にはげんだかいあって、幾月もたたないのに異常な進歩を示すことができた。6-3-4私は夜も勉学にあて、昼は一瞬も空費しなかった。6-3-5ゆくゆくは立派な地位につくことは紛れもないことだとして、人びとは今から私を祝福してくれるほど私の名声は知れわたるようになった。 6-3-6そして、私はべつに請願もしなかったのに、私の氏名は聖職禄名簿に記入された。6-3-7もはや、私は信仰を怠るようなことはなかった。6-3-8私はあらゆる勤行に熱意を示した。6-3-9チベルジュはこれを見てわがことのように喜んでくれた。6-3-10そして、彼の言う私の改心をみずから誇って、私の前で涙を流したのも再三ではなかった。 6-3-11人間の決心がぐらつきやすいものであることは、私とて百も承知で、何も驚くべきことではあるまい。6-3-12決心というものは一つの情熱から生まれ、他の情熱によって死ぬのが普通だから。 6-3-13それにしても、サン・シュルピスに私を導いたあの決心の神聖さを思い、また、それを実行するにあたって神が私に味わわせた内面的歓喜を思うとき、私は自分があのように平然とその決心をひるがえしたことに戦慄せずにはいられない。6-3-14もしも天の救いというものが、どんな場合でも、色欲の力と等しい力を持っているのが真実だとすれば、人が、なんらの抵抗もせず、なんらの後悔も感ぜずに、自分の本分から一挙に遠くさらわれてしまうのは、いったい、これはどんなに忌わしい力によるものなのか、これはだれかに説明してもらいたいものである。 6-3-15私は恋の病から完全に回復していると信じていた。6-3-16どんな肉体的快楽より、たとえそれがマノンによって提供されてさえ、私は聖アウグスティーヌスの一ページを読むことを、キリスト教徒としての瞑想の十五分間を持つことを選ぶであろうと思っていた。 6-3-17ところで、不幸が一瞬にして、私をふたたび谷底につき落したのである。6-3-18そして、私のこの堕落はもはや取返しのつかないものになってしまった。6-3-19というのは、私がはい出してきたもとの深間にたちまち落ち込んだというばかりでなく、新たに重ねた放埓な行為は、深淵の奥底のほうへいよいよ深く私を引きずりこんでいくからだった。 6-3-20私はマノンの消息を問い合せることなく、一年ちかくパリですごした。6-3-21最初のころ、この我慢はなかなかつらかった。6-3-22しかし、チベルジュのたえざる忠告と、私自身の反省が私にこの勝利をもたらしてくれたのだった。6-3-23ことに後半の数カ月はまったく平穏な明け暮れだったので、私もあの魅力的な裏切り女を永遠に忘れてしまう心境にまで達したものと思い込んでいた。 6-3-24神学校で公開の試験を受けるときが来たので、私は人を介して、数多の名士に出席してもらうことを頼んだ。6-3-25そのため、私の名前はパリの全区にひろまり、さては、私の不貞の女の耳にまで達したのである。 6-3-26僧名にかくされた私の名前が彼女にはっきりわかったわけではなかったろうが、好奇心のなごりか、それとも、私を裏切ったことの悔恨が多少はあったか、そのいずれの気持ちからか私には判断しかねたが、ともかく、私のにそっくりの名前に興味を覚えたものとみえる。6-3-27彼女はニ、三の女たちとソルボンヌに来て、私の試験に列したが、もちろん、彼女が私を思い出すのに苦労はいらなかった。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/11

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