(6・2)世の快楽を捨て僧門の道に

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

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6-2-1彼が物語るところによれば、私が彼をだまして情人と駆落ちしたことに気がつくと、彼も馬を駆って、私を追跡したが、四、五時間の差があったので、私に追いつくことはできなかった。6-2-2それでも、サン・ドニに着いたのは私の出た後、わずか三十分のちがいだった。 6-2-3パリで捕える確信があったので、六週間、毎日捜しまわったがむだだった。6-2-4私がいそうな場所へはどこへでも行ってみた。6-2-5どころが、とうとう、ある日、彼は私の情人をコメディ・フランセーズ座で見かけた。6-2-6まばゆい装身具にくるまっていたので、てっきり、新しい情夫に買ってもらったものとにらみ、彼女の馬車をつけてその家まで行き、下男の口から、彼女がB・・・・・氏の世話で囲われていることを知ったのだという。 6-2-7「ぼくはそれだけで手をひくようなことなどしなかった」彼はつづけて言った。6-2-8「ぼくは翌日もさっそく出かけていって、彼女自身からきみの消息を聞こうとした。6-2-9ぼくがきみのことを口にすると、いそいで彼女は席を立ってしまった。6-2-10だから、ぼくはそれ以外の手がかりは得られないまま田舎に帰ってくるより仕方がなかった。 6-2-11こうしてぼくはきみの事件を知り、また、その事件のためにきみがひどい苦境にいることを知った。6-2-12でも、ぼくはきみがいくぶんでも落ち着いたことがわかるまでは会いたくなかったのだよ」6-2-13「じゃ、きみはマノンに会ったんだね？」6-2-14嘆息をもらしながら、私は言った。6-2-15「ああ、きみのほうがどれだけ幸福かしれない。6-2-16なにしろ、ぼくは永遠に彼女には会えない運命なんだもの」6-2-17私のこの嘆息を彼女への未練のしるしと見た彼は、私にかずかずの苦言を述べ、また、私の性格の善良さについて、私の愛情の厚さについて、上手におだてあげたものだから、この最初の訪問以来、彼は自分と同様にこの世のあらゆる快楽を捨てて、僧門にはいるはげしい欲求を私の心中に目ざめさせたのだった。 6-2-18僧門にはいるという考えは私にこよなくも楽しかったので、ひとりでいるときも、ほかのことなど、もう念頭にないほどだった。6-2-19以前にもこれと同じ勧告をしてくれたアミアンの司教の忠言が思い出された。6-2-20そして、私がこの決心をするようになった場合、司教が私のためにいろいろと幸先のいい予想をしてくれたことなども思い出された。6-2-21私のこの考えの中には信仰心も加わっていた。6-2-22＜そうだ、キリスト教徒としての、素朴な生活をおくろう＞ 6-2-23私は思った。6-2-24＜学問と宗教に没頭しよう。6-2-25そうなれば、恋愛特有の危険な快楽など考えなくてすむだろうから。6-2-26ぼくは世俗人の喜ぶことなど軽蔑しよう。6-2-27そして、ぼくの心は、それが尊重するものしか欲しないことを、ぼくはよく知っているので、不安も欲望もほとんどなくなることだろう＞ 6-2-28そこで私は静かな隠遁生活の設計をあらかじめ作ってみた。6-2-29それにはまず人里離れた家が必要だ。6-2-30小さな森と、庭のはずれを流れている清らかな小川もなければならない。6-2-31選りぬいた書物をならべた書斎、有徳の良識ある少数の友、清潔で、質素で、つつましい食卓。 6-2-32それに私はひとりの友との文通もつけ加えた。6-2-33その友はパリに住んでいて、私にいろいろと新しいニュースを知らせてくれることになる。6-2-34といっても、それは私の好奇心をみたすというよりは、都会人の愚かな喧騒を他山の石としてながめようとするためだった。 6-2-35＜これでぼくは幸福になれないものだろうか？6-2-36ぼくの意図はことごとくみたされないものだろうか？＞と私はひとり思うのだった。 6-2-37この計画が私の好みをひどく喜ばせてくれたことは確実であった。6-2-38それにしても、これほど慎重な手配の最後にきて、私の心はまだ何ものかを期待していることがわかった。6-2-39そして、このように世にも魅力的な隠遁生活の中でこれ以上に所望するものがなくなるためには、マノンとそこで暮らすのでなければならないことがわかってきた。 6-2-40そのあいだにも、チベルジュは、自分の焚き付けたこの計画のことでひんぱんに訪れてきたので、私も機会を見て父にこのことを申したてた。6-2-41父の意見では、職業の選択は子どもの自由意思にまかせるというのだった。6-2-42そして、私が自分を処理するのにどんな方法をとろうとも、その助言によって私を助ける権利しか保留していないというのだった。 6-2-43事実、父はきわめて適切な助言をあたえてくれたので、そのため、私は自分の計画をいよいよ丹念におし進めこそすれ、それにいや気のさすようなことはさらになかった。6-2-44新規の学校生活が近づいてきた。6-2-45私はチベルジュと相談して、サン・シュルピスの神学校へいっしょにはいることにした。 6-2-46つまり、彼は神学の研究を完成するためであり、私は私のそれを開始するためであった。6-2-47彼の才幹は司教管区の司教から高く買われていたので、私たちの出発以前にこの司教から相当の額の奨励金を得たのだった。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/11

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