(5・5)息子は十字軍の騎士には不向き

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(5) 5/5

5-5-1このように相も変わらず感情的な私を見て、父は意外に思ったらしい。5-5-2父は私が名誉を重んずる者であることを知っていたし、それに、彼女の裏切りによって私が彼女を軽蔑していることも信じて疑わなかったので、私のこの強情は、ひとりの女に対する特別の情熱というよりは、女というものに対する一般的な好みから来ているものと思いこんだのである。 5-5-3父はこの考え方にあまりにもとらわれすぎていたので、自分自身の深い愛情だけに相談したうえで、ある日、それを話にやってきたのである。 5-5-4「騎士」と父は私に呼びかけた。5-5-5「これまでわしはおまえに十字軍隊の十字章をつけさせることばかり考えていた。5-5-6しかし、おまえの気質はそういった方向には向いていないことに気がついた。5-5-7どうやらおまえは美しいご婦人が好きなようだね。5-5-8だから、わしはおまえの気に入りそうな人を捜してあげたいと思うんだがね。5-5-9どうだろう、おまえの考えをありのままに言ってごらん」 5-5-10私はもう女など見わけがつかなくなってしまった。5-5-11それに、こんなひどい目にあったからには、どんな女も同じようにきらいだと答えた。5-5-12「ひとり捜してやろうじゃないか」父は微笑しながら、ふたたび言った。5-5-13「マノンにそっくりで、マノンより貞淑な女をな」 「ああ！お父さんにいくらかでも親ごごろがあるのなら」私は言った。5-5-14「返してもらいたいのは彼女なんです。5-5-15ねえ、お父さん、信じてください。5-5-16彼女はぼくを裏切ったりなんかしたのじゃありません。5-5-17そんな卑怯なまねなどできる女じゃないのです。5-5-18あの卑劣漢のB・・・・・ですよ、ぼくたちをだましたのは、あなたや、彼女や、ぼくをだましたのは。5-5-19彼女がどんなに優しくて、まじめであるかをもしお父さんがご存じなら、もしお父さんが彼女をもっと認識してくださったなら、お父さんだって彼女が好きになるだろうがなあ」 5-5-20「どうしてそう子どもなんだろう」父は言った。5-5-21「あれほど彼女のことを話してやったのに、どうしてそうわからずやなんだろう。5-5-22兄さんにおまえを引渡したのはあの女だよ。5-5-23おまえはあれの名前まで忘れてしまうようでなければいけない」。 5-5-24そうして、もしおまえが賢明なら、わしのこの寛大な気持を利用しなければいけない。5-5-25父に理のあることは私とて百も承知でありながら、行きがかり上、つい反抗の態度に出るよりほかはなかった。 5-5-26「ああ！」と、私はしばらく沈黙したあとで言った。5-5-27「ぼくがどんな不誠実なやつらよりもいちばん陰険なのに引っかかったくらいのこと、ちゃんと承知ですよ。5-5-28そんなこと知ってますとも！」5-5-29私は悲憤の涙を流しながら、つづけて言った。 5-5-30「ぼくがまだ子どもでしかないことだって、知っていますよ。5-5-31ぼくなどのようなあまちゃんは、ああいう陰険なやつらにかかっては、赤ん坊の手をひねるほどのこともありますまい。5-5-32しかし、ぼくだって、復讐するにはどうしたらいいかくらい知っているつもりです」 5-5-33父は私のその計画を知りたいものだと言った。5-5-34「ぼくはパリへ行くんです」5-5-35私は言った。5-5-36「ぼくはB・・・・・の家に火をつけるんです。5-5-37そして、あの不貞のマノンもろとも黒こげに焼いてやります」 5-5-38この激昂ぶりは父の笑いを買い、とどのつまり、私の牢獄生活をいよいよ厳重にする役にしかたたなかった。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/8

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