(5・4)騎士に残された戦略は断食

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(5) 4/5

5-4-1「そんなはずありません」私は言った。5-4-2「あいつはマノンの心を獲得なんかしません。5-4-3暴力でやったんです。5-4-4媚薬か毒薬で誘惑したんです。5-4-5きっと腕ずくで手ごめにしたのかもしれません。5-4-6マノンがぼくを愛しているくらい、ぼくはちゃんと知っています。5-4-7あいつは短刀かなんかをつきつけて、むりやりぼくを捨てさせたんです。5-4-8あんな美しい人を奪うためなら、どんなこと仕出かすかわかったものじゃありません！5-4-9ああ、神さま！神さま！5-4-10マノンがぼくを裏切るなんてことがあるでしょうか！5-4-11ぼくを愛さなくなるなんてことがあるでしょうか！」 5-4-12一刻も早くパリへもどるのだと私はひっきりなしに口走るし、そのためにはいつなんどきでも起床しかねないようすに、このような興奮状態では阻止する方法のないのを見てとった父は、私を上のほうの部屋に移して、監視のためにふたりの従僕をつけておくことにした。 5-4-13私はまるっきり自制心を失っていた。5-4-14パリにわずか十五分間いるためなら、私は千の命をも惜しまなかったであろう。5-4-15あれだけ大っぴらに宣言したのだから、なかなか部屋から出してもらえないことはわかっていた。5-4-16窓の高さも目測してみた。5-4-17窓から脱出することもとうてい不可能と知ったので、今度はふたりの従僕に優しく話しかけた。5-4-18もし彼らが私の脱出に同情してくれるならば、他日、彼らを出世させてやろうと、私はありったけの誓いをくりかえして約束した。5-4-19強要もし、懐柔もし、威嚇もした。 5-4-20しかし、こうした試みも依然として無益だった。5-4-21だから、私はあらゆる希望を失ってしまった。5-4-22私は死を決した。5-4-23私は寝床に身を投げると、死ぬまでここを離れまいと覚悟を決めた。5-4-24私は、その夜も、つぎの日も、この状態を固執した。5-4-25翌日、運んできた食事も拒絶した。5-4-26午後になると父は私を見にやってきた。5-4-27父は世にも優しい慰安の言葉で、私の悲しみをまぎらそうとつとめた。5-4-28父は何か食べることを断固として命令したが、その命令を尊重して私も従わざるをえなかった。 5-4-29数日が過ぎ去ったが、そのあいだも、父の面前で強要される以外は、何ひとつ口にしようとはしなかった。5-4-30父は諄々と条理をつくして説き、どうかして私を本心にたちかえらせ、不貞なマノンに軽蔑心を起させようとつとめた。 5-4-31もとより、私が彼女を敬愛しなくなったのは事実であった。5-4-32あらゆる被造物の中で最も浮気で、最も不貞なものをどうして敬愛することなどできよう？5-4-33そのくせ、私が自分の心底にいだいている彼女の姿、彼女のうるわしい顔立ちは、深く刻みこまれていて、痛いほどまで感じられた。 5-4-34「ぼくは死ぬことなど平気だ」5-4-35私は言うのだった。5-4-36「こんな恥辱と苦痛を受けたからには、むしろ、死ぬのが当然かもしれない。5-4-37しかし、千回死ぬよりか、あの恩知らずのマノンを忘れるほうがつらいのだ」

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/8

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