(5・3)騎士の胸を突く、B氏の父への助言

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(5) 3/5

5-3-1「は、は、は」と父は腹をかかえて大笑いした。5-3-2「それはみごと、みごと、まったくおまえときたら、かわいいおばかさんだよ。5-3-3そういう甘ちゃんのおまえが、わしにはいかにもいとおしい。5-3-4ほんとにおまえは哀れな騎士だよ、それにしても、おまえを十字軍隊に入隊させるなんて、これは惜しいようなものだ。5-3-5なにしろ、おまえは辛抱づよくて、便利なご亭主になれる資格が大ありだもの」 5-3-6父は私のいわゆるおめでたさ、おっちょこちょいに、こうした容赦のない嘲笑をつづけざまに浴びせかけた。5-3-7とうとう私も口をつぐんでしまったので、父はひとりでしゃべりつづけたが、父の勘定によると、私のアミアン出奔以来、マノンは私を約十ニ日間だけ愛したのだそうである。 5-3-8「というわけはね」父はつけ加えて言った。5-3-9「わしの知っているところでは、おまえがアミアンをたったのは先月の二十八日だったね。5-3-10きょうは二十九日で、B・・・・・氏から手紙が来たのが十一日前だし、あの人がおまえのおんなと完全な仲になるのに八日かかったと仮定するね。5-3-11さて、先月二十八日からこの二十九日までが、三十一日、それから十一と八を引くと、残りが十二となるね。5-3-12多少の出入りはあろうが」 5-3-13またしても、どっと笑い声が起った。5-3-14私はこの悲しい喜劇に最後までついていけるかどうかをあやぶんだほど心をかきむしられながら、それでもしまいまで聞いていた 。5-3-15父は言ったのである。5-3-16「おまえはご存じないらしいので、わしから教えてやるがね。5-3-17B・・・・・氏がどうしておまえのお姫さんの心を獲得したかを話してあげよう。5-3-18というのは、あの男はじつに人をばかにしたものの言い方をするんだが、その言いぐさによれば、おまえから女を奪う気になったのも、じつは、ただわしのためを思って、欲得ぬきの熱意からやったのだそうだ。5-3-19このように一面識もない人から、こんな立派な考えを期待しなければならないとはね。5-3-20おまえがわしの息子だということを女から教えられたのはいうまでもない。5-3-21それで、おまえという邪魔ものを取除くために、わしに手紙をよこして、おまえの住所とおまえの放蕩生活を報告してよこし、それから、おまえを取押えるには強力な助太刀がいることを教えてくれたんだね。5-3-22つまり、おまえの首っ玉を押える方法を容易にしようと、一役買って出たわけなのさ。5-3-23それで、彼の指図のおかげで、おまえの女の指図さえあって、兄さんはまんまとおまえを不意打ちする機会を見つけたわけなのさ。5-3-24おまえの勝利がどれだけつづいたか、今こそ祝うがいい。5-3-25騎士さんよ、おまえの征服はなかなか早かったが、勝利品はいつまでも保存できなかったようだね」 5-3-26一語一語が胸を突くこの説教を、私はもうこれ以上長く聞いているには耐えられなかった。5-3-27私は食卓から立ちあがった。5-3-28そして、食堂を出ようとして四歩も歩かないうちに、気を失って、床の上に倒れてしまった。 5-3-29手早い手当で私は意識を回復した。5-3-30私は目をあければ涙を滝と落し、口をあければ、世にも悲痛な溜息をもらすばかり。5-3-31日ごろから私を愛することの厚かった父は、その心情を傾けつくして、私をなぐさめようとつとめた。5-3-32私は父の声に耳を傾けてはいたものの、一語も聞えなかった。5-3-33私は父のひざにとりすがるなり、B・・・・・を刺し殺しにパリへやってもらいたいと、手を合わせて懇願した。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/8

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