(5・2)実家に密告したのはB氏だった

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(5) 2/5

5-2-1私たちはほどなくサン・ドニに着いた。 5-2-2私の沈黙に驚いた兄は、私がおびえているためだと想像した。5-2-3私は彼をなぐさめるつもりで、ただ私がおとなしく本分にかえって、父の愛情に報いさえすれば、いかに厳格な父だってこわがることはないと請けあってくれた。 5-2-4その夜はサン・ドニ泊り。5-2-5兄は私の部屋に三人の従僕を寝かす用心を怠らなかった。5-2-6アミアンからパリに行く途中、マノンと泊ったその同じ宿屋に自分のこの姿を見いだしたときには、言い知れぬ感慨におそわれた。 5-2-7亭主も召使たちも私だとわかると、たちまち、私の行状のあれこれを見やぶったらしく、召使たちが亭主に言う声が聞えてきた。 5-2-8「はてな、あれは六週間前にうちへ泊ったあのかわいい坊ちゃんじゃありませんか。5-2-9首ったけに惚れていた娘さんといっしょだったがな。5-2-10いや、まったく、べっぴんだった！5-2-11かわいそうに、片時もくっついているほどの仲だったのに、こうやって、引裂かれるなんて、まったく殺生な」 5-2-12私はなにも耳にはいらなかったふりをし、また、できるだけ顔を見られないようにしていた。5-2-13兄はサン・ドニにふたり乗りの馬車を待たしていたので、早暁、私たちは出発し、その翌日の夕方、わが家に着いた。 5-2-14兄は私より先に父に会い，いかに私が従順に連れられてきたかを話して、あらかじめ私のためにはかっておいてくれたので、私は予期していたほどきびしくは迎えられずにすんだ。5-2-15父も私が無断で家出した過失について一応の叱責を加えただけですませた。 5-2-16また、私の情人に関しての父の言葉は、私が見も知らぬ女におぼれた以上、この処置は当然であること、私の慎重な性格をもっと高く評価していたこと、しかし、この小事件にこりて、私がより賢明になることを望んでいるというのであった。 5-2-17私は父のこうした説法を、自分の考えに都合のいいような意味においてだけ拝聴した。5-2-18私は父が許してくれたその寛大な態度に感謝し、今後、品行にいっそう気をつけて、正しくすることを約束した。5-2-19心中、私は凱歌をあげていた。5-2-20それというのも、万事好調なので、この分だと、夜があけなくても、勝手に家をぬけ出られるものとばかりたかをくくっていたからだった。5-2-21一家の者たちは夕食の食卓についた。 5-2-22彼らは、私のアミアンでの勝利と、あの忠実な恋人との逃避行について私をからかった。5-2-23こうした攻撃も私は喜んで迎えた。5-2-24私の心を片時も去らないあの人のことを語ることができただけに、むしろ、私にとってこの攻撃は魅力的でさえあったのだ。 5-2-25それにしても、父のもらしたニ、三の言葉に私はハッとして、耳をそばだてずにはいられなかった。5-2-26父は不貞ということについて云々し、また、B・・・・・氏から受けた何か曰くありげな親切について語っていた。5-2-27B・・・・・氏と聞いて、私はうろたえてしまい、もっと詳しく説明してくれるようにと意気地なくも嘆願したものだった。 5-2-28父は兄のほうに向いて、いきさつの全部をまだ話してないのかとたずねた。5-2-29兄はそれに答えて、道中、私は非常に神妙そうにしていたので、私の狂態を療治するためにこの薬を盛る必要を感じなかったと言った。5-2-30父は話してしまおうかと、迷っているらしかったので、私は父にせがんだ。5-2-31そのせがみ方があまりにもひたむきだったものだから、父も私を満足させてくれた。 5-2-32というよりは、世にも恐ろしい物語によって残酷にも私を闇討ちにしたと言ったほうが当っているだろう。5-2-33父はまず私に質問を発して、私は自分の恋人から愛されているといつも単純に信じていたかどうかたずねた。5-2-34その点、私はなんらの疑いをさしはさむ余地のないくらい確信していると、大胆不敵に答えたのである。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/8

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