(4・4)マノンの涙の意味するものは

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(4) 4/4

4-4-1やっと、私はこの謎をとく鍵を見つけたように思った。4-4-2＜きっとB・・・・・氏は、大事業に関係している、顔のひろい人にちがいない＞4-4-3私は自分に言ってきかせた。4-4-4＜それで、マノンの親戚の者は、彼女にお金を渡すのをこの人に依頼したのだろう。４-4-5おそらく、これまでにもこの人から受取ったことはあったに相違ない。4-4-6きょう来たのも、新たに渡すお金があったからだろう。4-4-7これまで彼女がそれをかくしていたのも、ぼくを楽しくびっくりさせようという、いたずらを仕組んでいたからなのだ。 4-4-8きょうにしたって、こんなところへ来てくよくよするより、いつものとおりに部屋へはいっていったら、きっと彼女は自分から話してくれたことだったろう。4-4-9すくなくともぼくからきり出したとしたら、彼女だってかくすようなことはあるまい＞4-4-10この考え方に私は力強く保護されたので、自分の気がかりを減らすことができた。 4-4-11私はすぐに家にもどった。4-4-12いつもどおり、マノンに優しい接吻をしてやった。4-4-13彼女も愛想よく迎えてくれた。4-4-14もう私の推測はいよいよ確実なものに思われてきたので、はじめ、私は自分から言い出してみたくて仕方なかったが、やっと我慢した。4-4-15おそらく彼女が先手をうって、今までのことをすっかり教えてくれるに相違なかろうから、それを待つことにした。 4-4-16夕食の用意がととのった。4-4-17私は晴れやかな気持ちで食卓についた。4-4-18ところが、ふたりのあいだにおかれたロウソクの光で私は気づいたのだが、私の最愛のものの顔に、目のなかに、悲しみの色がただよっていたのだ。4-4-19そう思うと、私まで悲しくなってきた。4-4-20彼女のまなざしは私のうえに注がれていたが、そこにはただならぬもののあることに私は気づいた。4-4-21それは恋ゆえか、あわれみゆえか、私には見わけることができなかったが、何か甘ったるい、ものうげな感情らしく思われた。4-4-22私も同じようにまじまじと彼女を注視した。4-4-23私のこの視線によって、私の心的状態を判断するのに、おそらく彼女は私に劣らず苦労したことであったろう。 4-4-24私たちは口をきこうともしなかった。4-4-25食事をしようともしなかった。4-4-26とうとう、彼女の美しい目から涙の落ちるのが見えた。4-4-27不貞の涙だ！4-4-28「おお、神様！」私は叫んだ。4-4-29「きみは泣いているね、いとしいマノンよ。4-4-30きみは泣くほど悲しいのだ。4-4-31それだのに、きみは自分の苦しみをちっともうちあけてくれないんだね」4-4-32彼女が答えたのは溜息ばかり。4-4-33これがまた私の不安をいよいよつのらせた。4-4-34私はふるえながら立ちあがった。4-4-35そして、恋ゆえの激情にかられながら、彼女の涙の原因をうちあけるようにとせがんだ。 4-4-36彼女の涙をふいてやりながら、私も涙をこぼした。4-4-37私は生きた心地もなかった。4-4-38私の苦悩と恐怖の現われを見たら、野蛮人だって感動せずにはいなかったろう。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/3

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