(4・3)B氏の来訪とひそかな脱出が意味するもの

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(4) 3/4

4-3-1私は今しがた耳にしたことを思い出す気にはなれなかった。4-3-2私はそれを幻覚だと考えたかったのだ。4-3-3そして、そんなことに気づかなかったようなふりをして、家に帰ろうと思ったことも二度や三度ではなかった。4-3-4マノンが私を裏切ろうなど、とてもありうべからざることに思われたので、むしろ、彼女を疑ったりして、恥をかかせるのが心配だった。 4-3-5なるほど、私は彼女に夢中だったかもしれない。4-3-6それにしても、私が彼女から受けた愛のあかし以上のものを、必ずしも私は彼女にあたえたとは言えない。4-3-7だから、私は彼女が自分よりも忠実でないとか、誠実でないとか言って、どうして責めることなどできよう？4-3-8なんの理由あって彼女は私をだましたというのか！ 4-3-9ほんの三時間前のことではないか、彼女が世にも熱烈な愛撫を私にあたえてくれたのは、そして、私の愛撫をも感激しながら受けてくれたのは。4-3-10私には彼女の心より自分の心がよっぽどわからなくなってしまった。4-3-11「いや、いや、ちがう」私は考えつづけた。4-3-12「マノンが裏切るなんてことがあるものか。4-3-13ぼくが彼女のためにしか生きていないくらいのことは、知らないはずはないのだ。4-3-14ぼくが彼女を熱愛していることは知りすぎているほどだ。4-3-15ぼくをきらう理由なんかありはしない」 4-3-16それにしても、B・・・・・氏の来訪、そして、ひそかな脱出、ということになると、私も困ってしまう。4-3-17それにまた、マノンのこまごました買物にしたって、私たちの現在の財産をうわまわっているように思われる。4-3-18これはどうしても新しい情夫の仕送りを感じさせないではおかない。4-3-19それに、私の知らない金に対して彼女が示したあの自信たっぷりの言葉にしてもおかしい。4-3-20こう考えてくると、自分の心に都合のいいような希望的観測ばかりに頼ってはいられない。 4-3-21しかし、また一方、私たちがパリに来てからというもの、私が彼女を見ないでいるということはほとんどなかった。4-3-22仕事でも、散歩でも、芝居見物でも、私たちはいつも肩をならべていた。4-3-23いや、もう、片時離れていてさえ、私たちはつらくてならないほどだった。4-3-24私たちは愛しあっているのだと、たえず口に出している必要があった。4-3-25そうでもしていないと、心配のあまり死んでしまいそうだった。4-3-26だから、マノンが私以外の男に一瞬でも心を奪われることがあろうなど、とうてい私には想像もできなかった。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/3

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