(4・2)マノンと隣家のB氏との情事

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(4) 2/4

4-2-1私たちはパリで家具つきの部屋を借りた。4-2-2それはV・・・・・街にあった。4-2-3そして、私にとって不幸にも、有名な司税官B・・・・・氏の邸宅と隣あわせであった。4-2-4三週間が過ぎ去った。 4-2-5そのあいだ、私は恋にうつつをぬかしていたので、郷里の家のことも考えなければ、私のゆくえ不明を心配している父のことも平気だった。4-2-6とはいっても、私の行為は不良などというものではなかったし、マノンにしてみても非常につつましくふるまっていたので、生活がすこし落着いてくるにしたがって、私も自分の義務のことをすこしずつ思い出すようになった。4-2-7できるものなら、私は父と和解しようと決心した。4-2-8私の恋人は真に愛くるしかったので、もし私が彼女の賢さと値うちを父にわからせる手だてを見つけたとしたら、父の気に入ることを私は疑わなかった。4-2-9一口に言えば、父の承諾なしでも結婚できるという希望には裏切られた私ではあったが、しかし、父に話せば結婚の自由が得られそうに思われてきたのだ。 4-2-10私はこの計画をマノンに伝えた。4-2-11そして、恋や義務のことばかりでなく、お金のこともいくらか関係のあることを彼女に言ってきかせた。4-2-12なぜなら、私たちの財布はまったくのからっぽになっていたのだし、それに、お金はなくならないものだという考え方を私は改めかけていたからだった。4-2-13マノンはこの提案にはすこぶる冷たかった。4-2-14しかし、彼女がこの提案に異議を申したてたのは、彼女の愛情そのものからであり、また、もし父が私たちの隠れ家を知ったあとで、私たちの結婚に賛成しなかったとしたら、彼女は私を失うかもしれぬという心配からでもあると思い込んでいた私は、何者かが私に残酷な一撃を加えようと、そこに待ちかまえているとは夢にも思っていなかった。 4-2-15お金のことなら、まだ数週間くらい暮せるものが残っていると彼女は答えた。4-2-16そして、それがなくなれば、田舎の親戚に無心の手紙を書いて、金策をするつもりだということだった。4-2-17彼女はこの反対意見を述べるにしても、いかにも優しい、熱情あふれた愛撫で和らげたものだから、彼女のなかにのみ生き、彼女の心のみを信じていた私は、彼女の返答と決心に一も二もなく賛成してしまった。4-2-18私は、自分たちの財布も、日常の出費の支払いも彼女にまかせきりだった。 4-2-19まもなく気づいたことだが、私たちの食卓にご馳走がふえ、彼女も相当高価な身なりをするようになっていた。4-2-20私たちにはせいぜい十二ピストール（訳注　一ピストールは約十フランに当る昔の金貨）か、十五ピストールくらいしか残っていないことを知っていた私は、こうして贅沢が目に見えて増していくのを彼女に驚いて見せたところ、心配しないでほしいと、彼女は笑いながら言って、「お金なんて天下のまわりものだって、あたし、よく言ったじゃないの」と事もなげに言い放った。4-2-21それに不安を感ずるためには、私の恋はあまりにも単純であった。 4-2-22ある日の午後、私はふだんよりおそくなると彼女に告げて外出したのだったが、帰って驚いたことひは、ニ、三分も戸口で待たされたのだった。4-2-23私たちは自分らと同じ年くらいの少女をひとりだけ雇っていた。4-2-24彼女が戸をあけに来たので、どうしてこんなに手間どったのかきいてみた。4-2-25戸をたたくのが聞こえなかったからだと、いかにも困っているらしい返事だった。4-2-26私は一度しかたたかなかったのである。4-2-27私は言ってやった。4-2-28「だって、もし聞こえなかったのなら、どうして戸なんかあけに来たのだろう？」4-2-29この質問は彼女をひどく 困らせてしまったので、すぐに機転をきかして答えることもできず、泣き出してしまったが、これは自分のあやまちではないこと、奥様からの命令で、B・・・・・さまが、居間つづきの階段から出ていくまで戸をあけてはならないと言われたことを泣き泣き私に説明したのだった。 4-2-30私は茫然とつっ立ったまま、とうてい部屋にはいっていくだけの勇気などなかった。4-2-31私は用事にかこつけて、このまま引返すことにした。4-2-32そして、この娘には、すぐ自分はもどってくると、彼女の女主人に告げてもいいが、B・・・・・氏のことをしゃべったなどとは言わないように命じた。 4-2-33私はあまりの驚きに、ただぼんやりして何をしていいかわからず、階段をおりながらも涙をこぼすばかりだった。4-2-34しかも、どういう気持ちで涙が出るのかもわからなかった。4-2-35私は目にとまった最初のカッフェにとびこんだ。4-2-36そして、とあるテーブルに腰をおろすと、両手に顔をうずめて、自分の心に起りつつあることを整理しようと試みた。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/3

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