(3・3)友を出し抜いての「駆け落ち」

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(3) 3/3

3-3-1チベルジュは私よりただの三つの年上でしかなかったが、思慮に富んだ、品行方正な青年だった。3-3-2彼はなみなみならぬ愛情で私を愛していた。 3-3-3その彼がマノン嬢のような美しい少女を見たこと、彼女を案内しようとする私の執心ぶり、彼をまこうとして私のとったやり方などからして、私が恋しているのではないかと、多少の疑いをいだかずにはいられなかった。 3-3-4彼は私を不愉快にさせまいとして、私を宿屋にひとり残したままで、もどってくるようなことはしなかったが、そのかわり、私の下宿先のほうへまわっただけで、私が着いたのは夜の十時だったが、彼はちゃんと待っていた。3-3-5彼の姿を見ると私はがっかりしたが、彼もまた自分が私を拘束していることにすぐ気づいた。 3-3-6「ぼくの見るところだと」彼はかくさず言った。3-3-7「きみはぼくに知らせたくない事をもくろんでいるね。3-3-8きみのようすでわかるもの」3-3-9私はなにも自分の計画をいちいち彼に報告する義務はないのだと、かなりぶしつけに答えた。3-3-10「それはそうかもしれない」彼は語をついだ。3-3-11「しかし、きみはいつもぼくを友人としてあつかってくれた。3-3-12そして、この資格は多少の信頼と告白をきみに要求してもいいと思うんだが」3-3-13彼は秘密をうちあけることを、長いあいだ、しつこく迫ったので、これまで彼に対して一度なりと隠しだてなどしたことのない私だけに、自分の恋のことを全部うちあけてしまった。 3-3-14それを聞きおわった彼には不満の色がありありと見えたので、私は思わずぞっとしたくらいだった。3-3-15ことに逃亡の計画をもらしたその不用意には自分ながら後悔せずにはいられなかった。3-3-16彼はあくまで私の友人である以上、全力をつくして私の計画に反対するのだと言った。 3-3-17それにはまず、私に考えなおさせるため、あらゆる手段をとるつもりであるが、それでも私がこの哀れむべき決心を断念しないというならば、是が非でもそれをやめさせることのできるような人びとに知らせるつもりだと言うのである。3-3-18彼はこういうまじめなお説教を十五分もしたあとで、もしも私がもっと賢明に、もっと理性的になることを誓わないならば、私のことを人にぶちまけるという脅迫をふたたびもち出して、この話を終った。 3-3-19私はこんなにまでたわいなく心中をもらしてしまって、にっちもさっちもいかなくなっていた。3-3-20だが、愛の神は、ニ、三時間前からすばらしい知恵をかしてくれていたので、私は自分の計画があす決行されることを彼にまだ話してないことに気づいたのだった。 3-3-21で、私は上手ににごして、ごまかすことにした。3-3-22「チベルジュ」と私は言った。3-3-23「きょうまで、ぼくはきみを友人だと信じてきた。3-3-24そして、ぼくはこんなうちあけばなしをしてきみをためそうと思ったのだ。3-3-25ぼくが恋をしているのは事実だ。3-3-26うそだとは言わない。3-3-27しかし、駆け落ちなどということになると、そう簡単にできるものではない。3-3-28あすの九時にぼくを誘いに来てくれたまえ。3-3-29きみにぼくの恋人を会わせよう。3-3-30そして、ぼくがこんなに苦労するだけの女かどうか判断してくれたまえ」3-3-31彼は無数の友情の誓いを示したあとで、私をひとりにしてくれた。 3-3-32私は夜通しかかって荷物を整理してから、明け方になって、マノン嬢の宿屋へ行ってみると、私を待ってくれていたことがわかった。3-3-33通りに面した窓のところにいたのだ。3-3-34だから、私に気づくと、自分で戸をあけに来てくれた。3-3-35私たちはそっと外に出た。3-3-36彼女の荷物といえば下着類だけだったので、それは私が持った。3-3-37馬車は出発するばかりになっていた。3-3-38私たちはたちまち町を遠ざかった。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/2

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