(3・2)彼女は「マノン・レスコー」と呼ばれて

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(3) 2/3

3-2-1このあいだに、彼女の厄介な老監督者が私たちのところに来たわけだったが、もし彼女が私の貧弱な機知をおぎなって、機転をきかしてくれなかったとしたら、私の希望はつぶされるところだった。3-2-2その監督者が来ると、彼女は私を従兄と呼び、狼狽のそぶりなどすこしも見せることなく、アミアンで会えたのは願ってもない仕合せだから、夕食を共にするために、修道院入りはあすにのばす、と言ったときには、私もまったくあいた口がふさがらなかった。 3-2-3こう策略の手をさしのべてくれれば、私のほうだって楽なものである。3-2-4私は彼女に一軒の宿屋を推薦した。3-2-5長いあいだ、父の御者をしていた者がアミアンで宿屋をひらいているので、その男なら、私のどんな命令でもきいてくれるはずだった。3-2-6私は自分で彼女をその宿屋まで案内していったが、老監督者はいささか不平そうだったし、狐につままれた格好の友人チベルジュは、一言も言わずに私についてきたことはいうまでもない。 3-2-7私がこの美しい人に恋を語っているあいだ、彼は中庭を散歩していたので、私たちの話は耳にはいらなかったのだ。3-2-8私は彼の頭のよさを恐れていたので、彼に用事を頼んで、上手にまいてしまった。3-2-9だから、私は宿屋に着くと、部屋の中で、心の女王とふたりきりで語りあう楽しさを持った。3-2-10間もなく、私は自分が思ったほど子どもでないことがわかった。3-2-11私の心は、これまで考えてみたこともなかったさまざまな快楽的な感情に目ざめ、甘美な熱情が私の血管ひろがった。3-2-12いわば、私はのぼせあがっていたので、しばらくは声の自由を奪われて、ただ目でものを言うよりほかはなかった。 3-2-13マノン・レスコー嬢は（みんながそう呼ぶのだと彼女は言った）、自分の魅力の効果を知って非常に満足そうだった。3-2-14しかも、私に劣らず感動していることを私は見のがさなかった。3-2-15彼女は私をいとしく思っていると言い、また、私のおかげで自由な身にしてもらえたらこんなにうれしいことはないとも言った。3-2-16彼女は私の身分を知りたがったが、それがわかると、いよいよその愛情はたかまってきた。3-2-17なぜなら、彼女も相当良家の生まれではあったが、高い家柄ではなかったので、私のような恋人を得たことが得意でならなかったのだ。 3-2-18私たちはふたりきりでいられる方法について相談しあったが、考えぬいたあげく、逃げるより良い方法のないことがわかった。3-2-19それにはあの監督者の目をかすめる必要があった。3-2-20ただの下男にすぎなかったとはいえ、警戒を要する男だった。3-2-21結局、夜のあいだに私が駅馬車の用意をし、彼が目をさます前、朝早く宿屋に引きかえすことに決めた。3-2-22あとはこっそりと逃げ出して、まっすぐにパリへ行き、パリへ着いたら結婚すればいい。 3-2-23私にはこれまで倹約してためておいた貯金が50エキュ（訳注　1エキュは3フランに当る昔の銀貨）ばかりあったし、彼女にはそのほぼ倍額があった。3-2-24この金額はけっしてなくなるものではなく、また、そのほかの手はずも成功しないはずはないと、私たちはまるで世間知らずの子どものようにひとりぎめしていたのだった。 3-2-25ふたりの夕食は、かつて味わったこともなかったほどみちたりたものであったが、食事がすむと、私は計画を実行するために宿を出た。3-2-26翌日は父のところへ帰る予定で、私の手荷物はもう用意ができていたので、事は思ったよりも簡単にはかどった。 3-2-27行李(こうり)を運ばせたり。町の開門時間である朝の五時に馬車を準備させたりするのはなんの造作（ぞうさ）もなかった。3-2-38ところが、思いもうけぬ故障が起って、私の計画ももうすんでにめちゃくちゃになるところだった。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/2

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