(3・1)アミアンにて、修道院送りされる美少女

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

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3-1-1私は十七歳で、哲学の学業を終了した。3-1-2P・・・・・の土地でも名家の一族である両親が、私をアミアンに遊学させていたのだ。3-1-3私は品行方正の、穏健な生徒だったので、先生がたは学校じゅうの模範生に推したほどだった。3-1-4それもこの名誉を受けるために格別の努力をしたというのではなく、ただ、生まれながらにおとなしい、もの静かな気質を持っていたのだった。3-1-5私は好んで学問にはげんだ。3-1-6そして、もともと悪徳は大きらいだったので、何かにつけてそれが表に現れると、人びとはそれを私の美徳に数えあげるのだった。 3-1-7私の家柄、学業の優秀、それに、人好きのする容貌も手つだって、私は町の教養ある人びとから知られ、かつ、重んじられた。3-1-8私はじつに多方面の人びとの称讃のうちに公開の試験を難なくはたしたので、出席の司教などは、僧籍にはいることを勧めたくらいだった。 3-1-9両親たちの希望である十字軍隊などよりは、僧籍で名をあげるほうがまちがいないと言ったのである。3-1-10そのころすでに両親たちは、騎士（シュバリエ）グリュウの名で私を呼び、十字章をつけさせていたのだ。 3-1-11休暇が来たので、私は父のもとに帰省する準備をしていた。3-1-12父はすぐにも私を上の学校に入れてくれる約束だった。3-1-13アミアンを去るにあたって私の最大の心残りは、つね日ごろ親しくしていたひとりの友人を残していくことだった。3-1-14友人は私よりいくらか年長だった。3-1-15私たちはいっしょに教育を受けた。3-1-16ただ、彼の家にはこれという財産もなかったので、僧侶になるよりほかはなかった。3-1-17で、私の去った後もアミアンにとどまって、この職業に必要な勉強をすることになったのである。3-1-18彼は多くのすぐれた性質をそなえた男だった。3-1-19今後の私の物語で、そういう性質をあなたは彼のうちに認めることであろう。3-1-20ことに友情に厚く、しかも、寛大である点は、昔からの有名な例をもしのぐほどであった。3-1-21あのとき、もし私が彼の忠告に従っていたなら、私は相変らず聡明で幸福な人間であったろうに。 3-1-22すくなくとも、私が色情のとりこになって、あの危険に引きずりこまれたとき、彼の助けを利用したならば、私は自分の幸運と名声の危険から、何かを救い出すことができたろうに。 3-1-23ところで、私の友がそうしたさまざまの心づかいから得たものといえば、そのせっかくの心づかいも無視され、また、それに腹をたてたり、それをうるさがったりするひとりの忘恩者によって、しばしば冷酷に報いられるという、悲嘆よりほかはなかったのである。3-1-24私はアミアン出発の日時を決めていた。3-1-25ああ！なぜ私は一日前の日に決めなかったのだろう！3-1-26そしたら、私は自分の純潔をそっくりそのまま父のもとに持ちかえったろうに。 「マノン・レスコー」の町「アミアン」の映像 3-1-27この町を去ろうとしていた日のちょうど前日、私はチベルジュと呼ぶその友人と散歩していたところ、アラスから来た駅馬車が目にとまった。3-1-28こういう馬車の着く宿屋まで、私たちはあとをつけていってみた。3-1-29ただ好奇心にかられたまでのことだった。3-1-30馬車からは数人の女が出てきたが、すぐに奥へはいってしまった。3-1-31ただひとり、非常に若い女だけになったが、その監督役らしい相当年配の男が、バスケットの荷物をしきりにとり出させているあいだ彼女は中庭に残っていた。3-1-32じつに美しい女だった。 3-1-33これまで異性のことなど考えてみたこともなければ、意識して女の子をながめたこともなかったような私、世間からは、温良だの、慎重だのとほめられてきた私が、たちまち、情火をあおられて、逆上してしまったのである。 3-1-34ひどく臆病で、すぐにどぎまぎするというのが私の本来の弱点であるはずなのに、あのときばかりは、この気の弱さに引きとめられるどころか、私はこの意中の恋人のほうへと進みよったのである。3-1-35彼女は私より年下ではあったが、臆するようすもなく、私のていねいな挨拶を受けてくれた。3-1-36私は彼女がアミアンに来たわけや、この町にだれか知人があるかどうかなどをたずねた。3-1-37彼女は両親の命令で尼になるために来たのだと率直に答えた。 3-1-38いちど恋ごごろを起こすと、恋のために頭はじつによく働くもので、私は彼女の両親がこんな決心をしたために、これは私の欲望の致命的な打撃になるのだろうと思わずにはいられなかった。3-1-39見たところ、彼女は私よりずっとませていたので、私は自分の思いが通じるようなぐあいに話した。 3-1-40両親が彼女を修道院に送ろうとするのは、彼女の意思に反してのことであり、また、おそらくは、彼女の享楽的な性癖をなおすためであったにちがいない。3-1-41すでに、その芽ばえの見えていたこの性癖は、やがて彼女と私のあらゆる不幸を引起すことになるのだった。 3-1-42私に芽ばえたこの恋と、学校式の雄弁がさずけてくれるあらゆる論理を動員して、私は彼女の両親の残酷きわまる意向を攻撃したのだった。 3-1-43べつに彼女はむずかしそうな顔も、軽蔑しているようなようすも見せなかった。3-1-44しばらくの沈黙の後、やっと彼女は口をきったが、それによれば、不幸になることはわかりきっているけれど、それを避ける方法はないのだから、これは天命だと思うよりほかはないということだった。3-1-45こういう文句を言うときの、そのまなざしの優しさ、愁いをふくんだ色っぽい風情、というよりも、私を破滅の底に引きいれようとする運命の力のために、私は前後の見さかいもなく断言したのである。 3-1-46もしも彼女が私の誠意を信用し、また、彼女がすでに私の心中に吹き込んだ無限の愛情をあてにしてくれるならば、私は命にかけて彼女を両親の暴圧から救い出し、彼女を幸福にしてやるであろうと。3-1-47その後、このときのことを思い出すごとに、いったい、この大胆さ、ことよどみのない表現はどこから来たのか、まったく不思議でならない。 3-1-48それにしても、恋はさまざまの奇蹟を行うからこそ、人はそれに神性をあたえるのだろう。3-1-49そのほかにも私はつきつめたことをいろいろ言いたした。3-1-50この見知らぬ美しい人は、私の年ごろではぺてん師でないことを十分に承知していた。 3-1-51彼女は私に告白して、彼女をすこしでも自由にすることができそうだったら、命よりも大切なものを払わなければならないように思うと言った。3-1-52私はなんでもやってみる覚悟だとくりかえした。3-1-53こうは言ってみたが、もともと、彼女を助ける手段を即座に考え出すほど経験のあるわけもない私は、彼女にとってたいして頼りになりそうもない、こんな漠然とした確言にすがりついているよりほかはなかった。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/2、22

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