(12・1)何の脈絡もなくレスコーが撃ち殺され、二人ぽっちに

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

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12-1-1それだのに、レスコーの家へはいるために、馬車をおりなければならなかったとき、私は御者とまた悶着を起して、あとでひどい目にあうようなことになった。12-1-2私は彼に一ルイの約束をしたのを後悔したのだった。12-1-3それが過分だというばかりでなく、それだけ支払う能力がないという、もっと困った理由のためだった。 12-1-4私はレスコーを呼んでもらった。12-1-5彼は部屋から門先までやって来た。12-1-6私は自分の窮状を彼の耳もとに訴えた。12-1-7彼は短気な性分だったし、それに、辻馬車を扱うことなどに慣れていない男だったので、そんなものは相手にするなという返答だった。 12-1-8「ルイ金貨一枚だと！」彼は言った。12-1-9「そんなやつにはむちの二十もくらわせるんだ」12-1-10「そんなことをしたら、私たちの破滅になるばかりだと、おだやかに言ってきかせてもむだだった。12-1-11彼は私の手からステッキをもぎ取ると、目にも見せんと、恐ろしい剣幕だったので、これまでにも近衛兵が歩兵の手に何度かかかったことがあったらしいこの御者は、よくもだましたな、覚えていろ、とどなりながら、馬車もろとも逃げ去った。12-1-12私は待て待てとむだに叫ぶばかりだった。12-1-13彼の遁走は私を極度の不安にかりたてた。12-1-14警察に密告することはわかりきっていた。 12-1-15「きみもひどいことをするね」わたしはレスコーに言った。12-1-16「もうきみの家じゃ安心はならん。12-1-17すぐに高とびしなくちゃ」12-1-18私はマノンに腕をかして歩かせた。12-1-19そして、私たちは大急ぎでこの危険な街をぬけ出た。12-1-20レスコーもいっしょについてきた。12-1-21神がものことを処理するそのやり方には、驚嘆すべき何かがあるものである。12-1-22私たちが歩いてから五、六分とはたたないうちに、私にはその顔はよくわからなかったが、ひとりの男がレスコーに気づいた。 12-1-23きっと彼はレスコーを捜し出そうと、家にまわりをうろついていたのだろう。12-1-24悪計をいだきながら、しかも、それを実行したのだ。12-1-25「レスコーだな」その男はこう言いながら、ピストルを一発ぶっ放した。12-1-26「今後は天使のところ行きやがれ、夕飯をいっしょに食いにな」12-1-27その男はすぐに姿をくらました。12-1-28レスコーはそのままばったり倒れてしまった。12-1-29私はマノンをせきたてて逃げようとした。12-1-30死骸を助けようとしてもむだだからだった。12-1-31それに、おっつけ駆けつけてくるに相違ない夜警につかまる心配もあった。12-1-32私は彼女と下僕もろとも、最初にぶつかった狭い通りにまぎれこんだ。12-1-33彼女はすっかり逆上していたので、正気づけるのに一苦労だった。 12-1-34ようやく、通りのはずれに一台の辻馬車を見つけ、私たちはそれに乗った。12-1-35しかし、御者に行く先を問われたときには、私も返事に困ってしまった。12-1-36私には安全な隠れ家もなければ、助けてもらえそうな友人もなかった。12-1-37金といえば、財布の中には半ピストール一枚よりないのだから、これはないも同様だった。12-1-38恐怖と疲労ですっかり参って、マノンは半分死んだようになったまま、私にもたれかかっていた。12-1-39しかも、私の頭はレスコーの殺されたことでいっぱいだったし、夜警のほうも心配ないとはまだ言えなかった。12-1-40さて、どうしたものか？ 12-1-42そのとき、運よくもシャイヨーの宿屋を思いついた。12-1-43私たちがあの村へ家を捜しに行ったときに、マノンといっしょに数日をすごしたあの家だ。12-1-44あそこなら安全だというばかりでなく、しばらくは宿賃の催促を受けずにいられそうに思われた。12-1-45「シャイヨーにやってくれ」と私は御者に言った。12-1-46御者は断った。12-1-47時刻がおそいので、一ピストール以下では行けぬというのだ。一難去ってまた一難だったが、ようやく六フランで話が決った。12-1-48私の有り金はこれで全部だったのだ。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/17

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