(11・7)上手の手から、毎度のように軽い言葉が、身の破滅

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(11) 7/7

11-7-1この理屈は動かすべからざるものに思われたとはいえ、マノンを自由にすることができるこんな手近の希望に私の心中ではうちかつことができなかった。11-7-2私はこのことをT・・・・・氏に言って、すこしばかりの軽率と無謀は恋に免じて許していただきたいと乞うた。11-7-3それに、私の計画では、はじめっからパリを去って、以前やったように、近郊の村にかくれるつもりでいたのだと付言した。11-7-4そこで私たちは例の下僕と相談して、彼の申出た企みをあすにもさっそく実行することにした。 11-7-5そして、われわれのできる範囲で仕事を確実なものにするため、彼女を逃げやすくさせるために男の服を持ってくることに一決（いっけつ）した。11-7-6それを中まで入れるのは容易ではなかったが、しかし、すぐその方法を発見するのに、私にもそれだけの知恵はあった。11-7-7それで、T・・・・・氏には、あすは薄い胴着を二枚重ねて着てくることを依頼しただけで、あとは全部私が引受けた。11-7-8翌朝、私たちはまたオピタルにやって来た。 11-7-9私はマノンの下着や靴下などを持参した。11-7-10上着の上には外套（がいとう）をはおっていたので、ポケットがふくらみすぎていることも見られずにすんだ。11-7-11私たちは彼女の部屋にはほんのわずかしかいなかった。11-7-12T・・・・・氏は二枚の胴着のうち一枚を残し、私は上着をあたえた。11-7-13出るのには外套だけで十分だったからだ。11-7-14これで彼女の身ごしらえに足りないものは何ひとつないと思われたのに、ただ一つ、残念ながら半ズボンを忘れていた。11-7-15こんな大事なものを忘れたって、場合がこれほど真剣でなかったなら、おそらく笑ってすむことだったろうけれど、こんな屁でもないものが、私たちの計画をめちゃめちゃにしてしまうかもしれないと思うと、私はすっかりくさってしまった。 11-7-16しかし、私は一つの決心をした。11-7-17つまり、私自身がズボンなしで出るという決心だ。11-7-18私は自分の半ズボンをマノンのために残した。11-7-19私の外套は長かったし、それに数本のピンでやりくりして、ともかく、門を体裁よく通過できるように細工した。11-7-20その日の残りは長くて、やりきれなかった。11-7-21やっと夜になったので、私たちは馬車に乗って、オピタルの門のすこし下手のところまで行った。11-7-22マノンが案内人と現れるまでに長くはかからなかった。11-7-23馬車の扉をあけておいたので、ふたりとも一瞬にして乗りこみ、私は自分の大事な恋人を両腕の中に受けた。 11-7-24彼女は木の葉のようにふるえていた。11-7-25御者はどこまで行くのかたずねた。11-7-26「世界のはずれまでだ」私は言った。11-7-27「マノンと永久に離れないですむところまでだ」11-7-28私の制しきれなかったこの興奮は、もうすんでにとんだ災難になるところだった。11-7-29御者は私の言葉を聞いてピンときたのだ。11-7-30そして、私が行く先の町名を告げると、彼は何かよくない事件に引きずりこまれようとしているのではないかとたずねた。11-7-31そして、マノンと呼ぶこの美しい青年は、私がオピタルから誘拐してきた女であるとか、私をかばってみずからの身を破滅させる気にはなれないとか言った。 11-7-32この悪党がこんなに慎重ぶってみせるのも、結局、馬車賃をもっと高く払わせようとする魂胆にすぎなかった。11-7-33オピタルはまだあまりに近かったので、折れるよりほかはなかった。11-7-34「しっ」私は制した。11-7-35「さあ、ルイ金貨一枚、もうけさせてやろう」11-7-36話がこう決れば、相手はオピタルそのものに火をつけるのも手伝いかねない有様だった。11-7-37私たちはレスコーの家に行きついた。 11-7-38時間もおそかったので、T・・・・・氏は途中で私たちと別れた。11-7-39だが、あす、また会うという約束だった。11-7-40例の下僕は私たちといっしょに残った。11-7-41私はマノンを両腕でぴったりとかたく抱きしめていたので、馬車の中でも私たちの座席は一つで足りていた。11-7-42彼女はうれし泣きに泣いていた。11-7-43そして、彼女の涙が私の顔をぬらすのがわかった。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/17

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