(11・6)１ルイ金貨の効能、マノン脱走の具体策と懸念

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(11) 6/7

11-6-1彼女は私が戸口にいることを了解した。11-6-2私がはいると、彼女はいそいで駆けつけてきた。11-6-3そのまま私たちは抱きあった。11-6-4寸分のすき間もない恋人同士にとって、三月の別れのあとでの再会がこんなにもうれしいものか、あふれ出る愛情が私たちを一体とした。11-6-5私たちの溜息、とぎれとぎれの感嘆詞、ただもうぐったりとなったまま、お互いがかわす愛の無数の言葉は、ものの十五分にして、T・・・・・氏を感動させずにはおかない場面を形成してしまった。 11-6-6「これはうらやましいかぎりですね」と、彼は私たちをすわらせながら言った。11-6-7「ぼくはどんなに光栄ある地位よりも、こんなに美しくて、情熱的な恋人のほうを選びますね」11-6-8「まったくそのとおりですよ」私は答えた。11-6-9「彼女から愛されるという幸福が確保されるなら、ぼくは世界じゅうの国々を支配するなんて軽蔑しますね」 11-6-10あれほど待ちこがれていた会談だっただけに、それにつづくふたりの話も、無限の愛情を欠くはずはなかった。11-6-11かわいそうなマノンは、その後の身のうえばなしを物語り、私は私で自分の冒険談を語りきかせた。11-6-12私たちは彼女の現在の状況と、私のこれまでの状況を語りあいながら、お互いにつらい涙を流した。 11-6-13T・・・・・氏は、私たちの不幸に終止符を打つために尽力しようと、いろいろと約束をして、私たちをなぐさめてくれた。11-6-14それにつけても、今後の会見の機会をいっそう平易に得るためには、第一回はあまり長びかないほうがいいというのが彼の忠告だった。11-6-15私たちにそれを納得させるのに彼は一苦労だった。11-6-16ことにマノンときたら、なかなか私を手放さなかった。11-6-17彼女は百ぺんも私を椅子にすわらせ、着物や手をしっかりつかまえていた。11-6-18「ああ！あんたたち、なんていう場所においてきぼりにするつもり！」11-6-19彼女は言うのだった。11-6-20「あんたにもう一度会えるって、だれが保証できて？」 11-6-21T・・・・・氏は私といっしょにときどき面会に来ると約束した。11-6-22そして、愉快そうにつけ加えて言った。11-6-23「もうここをオピタルなんて呼んじゃいけませんよ。11-6-24ここはヴェルサイユですよ、あらゆる男の心を支配する人がはいってきてからはね」 11-6-25私は出がけに彼女の係の下僕にいくばくかの心づけをし、特別に気をつけて世話をしてくれるように頼んだ。11-6-26この若者は、その同類たちに比べれば、さほど下品でもなければ、さほど残酷でもなかった。11-6-27彼は私たちの会見に列席したので、このぬれ場は彼を感動させずにはおかなかった。11-6-28そのうえ、彼に握らせたルイ金貨一枚は、彼を私に結びつけるために役だった。11-6-29中庭におりると、彼は私を物かげに引っぱっていった。11-6-30「ねえ、旦那」彼は言った。11-6-31「もしわしがここをクビになった場合に、わしを使ってくれるか、それとも相当の報酬を出すなら、マノンさんを逃がすくらい造作ないんですがな」 11-6-32これは何より耳よりのはなしだった。11-6-33で、私は一文なしだったけれど、彼の希望をずっとうわまわるような約束をした。11-6-34このくらいの男に報酬をやるなんて、朝飯前のことだと、かかをくくっていた。11-6-35「そのことなら、きみ、安心したまえよ」私は言った。11-6-36「きみのために何かしないっていう法はないからなあ。11-6-37まあ、ぼくの生きているあいだは大船に乗っているつもりでいるさ」11-6-38それにしても、彼はどういう方法を使うつもりなのか、私はそれが知りたかった。 11-6-39「なあにたいした方法でもありませんよ」彼は言った。11-6-40「夜、彼女の部屋の戸をあけてやって、通りの戸口まで案内していきますから、そこのあなたがいて、受取ってくれればいいのです」11-6-41それにしても、彼女が廊下や中庭を通るときに見つかる心配はないかと、私は念をおしてみた。11-6-42多少の危険のあることは彼も認めたが、しかし、ある程度の冒険も仕方ないということだった。11-6-43私はこのように断固たる彼を見て心強くは思ったが、ともかく、この計画を伝えようと、T・・・・・氏を呼んで、ただ一つ気にかかることを相談してみた。11-6-44彼は私以上にそれを困難なものだとした。11-6-45その方法で必ず逃げられるであろうことは彼も認めた。 11-6-46「しかし、もし彼女が見つかって、逃げるところをつかまったとしたら」11-6-47彼はつづけて言った。11-6-48「おそらくもう永久におしまいですよ。11-6-49うまくいったところで、あなたは即座にパリを離れなければなりますまい。11-6-50とうてい、捜索の目をかすめるわけにはいきませんからね。11-6-51それに、あなたのほかに彼女もあるのだから、捜索が二倍だけ楽になるわけですよ。11-6-52男ひとりなら逃げるのもたやすいでしょうが、きれいな道づれがあるとなれば、見つからずにいるのはまず不可能でしょうな」

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/17

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