(10・6)チベルジュを欺いての脱走計画がスタート

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(10) 6/6

10-6-1「何もびくびくすることはないさ、簡単にぼくの結論を言えば、つまり、相手に恋愛なんていやなものだと思わせようとしたら、相手の前で恋の喜びをけなしてみたり、徳行の実践により多くの幸福を約束してみたりするのは、あまり上手はやり方だとは言えないね。10-6-2われわれ本来の考え方からすれば、われわれの至福は快楽の中にあることは確実である。10-6-3ぼくにはこれ以外の考え方があるとは思えない。10-6-4ところで、あらゆる快楽の中で最も楽しいものは恋の快楽であるということを納得するには、それほどいつまでも考えている必要はあるまい。10-6-5ほかにもっとすばらしいのがあるからと約束されても、すぐにうそであることがばれてしまう。 10-6-6そして、一度、うそをつかれると、どんなに確実な約束をも疑うようになってしまう。10-6-7ぼくを徳行に連れもどそうとする説教師たちよ、徳行が必要欠くべからざるものであるというのはよろしい、だが、それはきびしくてつらいものであることをかくさないでほしい。10-6-8どうかはっきりと証明してもらいたいものだよ、はたして恋の喜びははかないものであるか、それは禁じられた喜びであるか、そのあとには必ず永遠の苦痛が来るか、どうかということをね。 10-6-9そして、恋の喜びが楽しくこころよいものであればあるほど、そのように大きな犠牲に報いてくれる神さまはいよいよすばらしいものになるだろう、と言ってくれたら、おそらくぼくは今まで以上に感動せずにはいられまい。0-6-10それにしても、われわれのような心の持ち方をしていれば、恋の喜びは、この世でわれわれの最も完全な幸福になるということを認めてもらいたいね」 10-6-11私のこの最後の言葉にチベルジュも機嫌をなおし、私の考え方にもいくぶんの道理があることを認めた。10-6-12ただ、彼がつけ加えた唯一の異議は、私にそれだけ神の報いがわかっているのなら、どうしてそれに希望をつないで、自分の恋を犠牲にして、すくなくとも、私本来の道にもどらないかとたずねたことであった。 10-6-13「ねえ、きみ」と私は答えた。10-6-14「だからこそ、ぼくはみじめなんだよ、弱いんだよ。10-6-15ああ！それはぼくにだってわかっている。10-6-16ぼくは頭で考えているように行動しなければならないのだ！10-6-17ところが、ぼくにはそれだけの実行力があるだろうか？10-6-18マノンの魔力を忘れるにはどれだけの助けが必要だろう？」 10-6-19「失敬だが」チベルジュは語をついだ。10-6-20「ここにやっぱりわれわれジャンセニストのひとりがいると思うがね」10-6-21「さあ、どうかね」私は言い返した。10-6-22「ぼくはどうあるべきか、まるっきりわからない。10-6-23ただ、彼らジャンセニストの言うことが真実であるのはわかるがね」10-6-24この会談はすくなくとも友のあわれみを新たにする役にはたった。10-6-25彼は私の不品行の中に悪性よりも弱気のほうが多く存在していることを了解した。 10-6-26この認識によって、彼の友情は今後もいよいよ私に救いの手をさしのべることになるのだったが、もしこれがなかったら、おそらく私は野たれ死にしたことだろうと思う。10-6-27とは言っても、私はサン・ラザールを脱出する計画のことなどはおくびにも出さなかった。10-6-28ただ手紙のことを頼んだだけだった。10-6-29手紙は彼の来る前にちゃんと用意しておいたのだし、また、その手紙を書くことの必要をもっともらしく思わせる口実にはこと欠かなかった。彼は誠実にきちんとそれをとどけてくれたので、レスコーはその日のうちに彼宛の分を受取った。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/16

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