(10・4)姦計の実行にはチベルジュの友情が不可欠

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

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10-4-1人のいい神父さんは、私がこんなにまで悩んでいるさまを見て、私をなぐさめようとした。10-4-2彼は私に言ったのである、自分はいま聞かされたようにはこの事件を理解していなかった、もとより、私の放埓な生活について知っていたのは事実であったが、しかし、G・・・・・M・・・・・氏が私の生活に関心を持たずにいられなかったのは、私の一家を重んじるといったような、何か親密な関係があるためとばかり想像していた。0-4-3自分としては、この先入観によって何もかも解釈していた、だから、いまの私のした話によって、この事件も非常に性質を変えることになる、そして、自分は警視総監にこの話をそのまま伝えるつもりだから、結局は、私の釈放ということになるのはまず間違いあるまい、と。 10-4-4さらに彼は私にたずねて、もし私の一家がこの監禁にあずかっていないのなら、どうして家へ手紙を書こうとしなかったのかと言った。10-4-5それは、父に心配をかけたくなかったからだとか、自分自身の恥になるからだとか、私はいくつかの理由をあげて、この言葉を封じたのだった。10-4-6とうとう彼はすぐその足で警視総監のところへ行くことを約束してくれた。 10-4-7それというのも、G・・・・・M・・・・・氏はかなり不満げにここを出ていったし、それに、なかなかの権勢家として恐れられている人なので、先方から何か不利なことをもち出される前に先手を打つ必要があるからだと、彼はつけ加えて言った。10-4-8私は神父の帰ってくるのを、判決の時刻が迫っている不幸な犯罪者のようなあらゆる不安懊悩をもって待った。 10-4-9オピタルのマノンを思いうかべることは、私にとって言いようのない苦痛であった。10-4-10私はあの住まいが不名誉なものであることぐらいは承知していたが、彼女がそこでどんな待遇を受けているかは知る由もなかった。10-4-11ただ、この恐ろしい家について私の聞いたいくつかの格別な挿話が思い出されてきては、ひっきりなしに私の逆上を新たにするのだった。10-4-12私はどんな犠牲を払っても、また、どんな方法に訴えても、彼女を救い出す覚悟だったから、もしほかに脱出の道がなかったとしたら、サン・ラザールに火をつけることも辞さなかったろう。 10-4-13だから、もし警視総監がここにいつまでも引きとめておくような場合、私はとるべき手段についていろいろ考えをめぐらせた。10-4-14私は知恵をしぼって、ありとあらゆる試みを案じ、ありとあらゆる可能性を捜した。10-4-15しかし、脱出を保証してくれるようなものは何ひとつなかった。10-4-16そのうえ、もしへたなまねでもしたら、いっそう厳重に監禁される心配があった。 10-4-17私は助太刀の望めそうな数人の友だちの名前を思い出してみた。10-4-18しかし、自分の消息を知らせるだけでも、どんな方法があったろう！10-4-19やっと、私は成功疑いなさそうな、じつに巧妙な案ができたと信じた。10-4-20そして、院長が帰り、彼の奔走が功を奏しないことがわかって、この案が必要になったとしたら、そのとき、なおいっそうよく練ることにした。 10-4-21彼は帰ってくるのに手間どらなかった。10-4-22私は吉報をもたらす人の喜ばしげな表情を彼の面上に見なかった。10-4-23「わしは警視総監に話はしたがね」彼は言った。10-4-24「それがすこしおそすぎたんだよ。10-4-25G・・・・・M・・・・・氏は、ここを出るなり総監に会いに行って、きみのことをさんざ悪く言ったものだから、総監はきみをいっそう厳重に閉じこめるようにと、新規の命令をわしに出そうとしていたとこなんだよ。 10-4-26しかし、わしからきみの事件の真相を伝えたら、総監も非常に気をよくしたようだった。10-4-27そして、G・・・・・M・・・・・老の旺盛ぶりをちょっと笑ってから、ともかく、彼の気のいくように、六カ月ばかりきみをここにおいておく必要があるというんだね。10-4-28ここの屋敷はきみのためにならないこともあるまいから、それはそれでよかろうというわけなんだね。10-4-29それから、きみを丁重に扱うようにとの言葉だったが、その点は、わしが責任をもって、きみの不平を買うようなことはしないつもりだ」 10-4-30この人のいい院長の説明はかなり長かったので、私はいろいろと慎重に考えを練る余裕があった。10-4-31ここでもし私が自由になりたい気持ちをあまり露骨に見せると、自分の計画を台なしにしてしまう危険があることが反省された。10-4-32そこで私はむしろ反対に出て、どうしてもここにいなければならぬとすれば、せめて神父さんから多少でも目をかけてもらえるのが何よりのなぐさめであると言ったのだった。 10-4-33ついで、私は一つお願いをきいてもらいたいと、さりげなくきり出した。10-4-34他人にはなんでもないことだが、私が心をしずめるには非常に役だつお願いであると言った。10-4-35それは私の友人のひとりでサン・シュルビスにいるひとりの立派な聖職者に、私がサン・ラザールにいることを知らして、ときどき、彼の訪問を受けるのを許してもらうことであった。10-4-36この恩典は格別に厄介なこともなくて許可された。つまり、これはわが友チベルジュのことであった。 10-4-37といっても、私は自分の釈放に必要ななんらかの助力を彼に期待したわけではなく、ただ、彼にも気づかせないようにして、彼をその遠まわしの道具に利用しようとするつもりであった。10-4-38一口に言えば、私の策略というのはこうである。10-4-39つまり、私はレスコーに手紙を書いて、彼、および私たち共通の友人に、私の救出について骨折ってもらうことを託そうと思ったのである。 10-4-40ところで、第一の難関は、彼に手紙を渡すことであったが、これをチベルジュにさせようという寸法だった。10-4-42ところが、彼は私の情人の兄を知っているので、こんな用事を引受けるかどうかあぶないものである。10-4-43そこで私の計画というのは、レスコー宛の手紙を、もう一通の手紙の中に封入したうえで、これは私の知合いの紳士宛とし、その人から最初の手紙をその宛先にすぐとどけてもらうことであった。10-4-44そして、われわれのこの手だてを打ち合せるためにはレスコーに会う必要があるので、彼がサン・ラザールに来て、私に面会を求めるように書入れたのだが、それには、兄が私の事件を調べにわざわざパリにやって来たということにして、兄の名前をかたればよかった。 10-4-45私はレスコーと相談のうえで、最も手っ取り早くて最も確実と思われるような手段を決めることにしていた。10-4-46院長は私がチベルジュと面談したがっていることを伝えてくれた。10-4-47この忠実な友は私のゆくえを見失っていたおりだったので、今度の事件を知っているはずもなかった。彼は私がサン・ラザールにいることを知っても、この不面目におそらく腹もたてず、私を本心にたちかえらせる好機と信じたか、さっそく、私の部屋へはせつけてきた。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/15

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