(1・2)娼婦の一人を恋人と呼ぶ青年の嘆き

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

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1-2-1部屋のすみのほうを振り向いてみたら、その青年というのがそこにすわっていた。1-2-2何か深いもの思いに沈んでいるらしかった。かつて私はこれほどまでにはげしい苦痛の色を見たことはなかった。1-2-3身なりこそごく粗末ではあったが、家柄も良く、教育も受けた男であることは一見してわかった。 1-2-4私は彼のほうに歩みよった。1-2-5彼も立ちあがったが、その目、その顔、また、その動作の一つ一つに、洗練された、高貴なものを発見したので、自然と私もこの男に好意を感ずるようになっていた。1-2-6「お邪魔してすみませんが」と、私も彼のかたわらにすわりながら言った。 1-2-7「あの美しい方について知りたいのですけど、私の好奇心をみたしていただけないものでしょうか？1-2-8どう見たって、こんなお気の毒な目にあわせてはいけない方のように思われますので」1-2-9これに対する青年の答えは至極率直なもので、自分自身のことを知ってもらわなければ彼女の何者かを教えることはできない。しかし、彼自身は仕方ない理由から人に知られずにいたい、というのだった。1-2-10「でも、あの下等なやつらが感づいているくらいのことならお話しできます」青年は巡査たちを指さしながら、つづけて言った。 1-2-11「それは私が、あまりにも彼女を熱烈に愛しているために、私はあらゆる男の中でいちばん不幸な人間になったということです。1-2-12私はパリで彼女を解放させるためにあらゆる手段を講じましたが、嘆願も、策動も、暴力もむだでした。1-2-13私はたとえ彼女が世界の果てまで行こうとも、そのあとを追っていく決心をしたのです。 1-2-14彼女といっしょに船にも乗ります。1-2-15アメリカにも渡ります。1-2-16ただ、じつに残酷にも、あの卑劣漢どもが」と、彼は巡査たちのことを言った。1-2-17「私を彼女のそばへやるまいとしているのです。1-2-18私の計画は、パリから十二、三キロ離れたところで彼らを白昼公然と襲撃することだったのです。 1-2-19私は相当の金を支払って、助太刀してくれるという四人の男を仲間に入れました。1-2-20ところがいざとなると、その卑劣なやつらは、私ひとりを敵に残したまま、自分たちは金もろとも逃げ出してしまったんです。1-2-21暴力では成功できないと知って、私は武器を捨てました。1-2-22私は巡査どもに報酬を払うことにして、せめて同行することを大目にみてもらいたいと申出ました。1-2-23もうけ仕事だと聞いて、彼らも承知せずにはいませんでした。 1-2-24彼らは私に恋人と口をきかせるたびに、支払いを要求しました。1-2-25いくらもたたないうちに、私の財布はからっぽになってしまいました。1-2-26ところが、こうして、一文ましになると、私が彼女のほうへ一歩ふみ出しても、彼らは私を乱暴につきとばすという残酷な仕打ちにうってかわりました。1-2-27それでも私が彼らのおどしを無視して、そばへ行こうものなら、たちまち、なまいきにも鉄砲の先をつきつけずにはおきません、彼らの欲ばりをみたすためには、これまで私を乗っけてくれていた馬を、立派な馬とはいえませんが、ここで売って、これから先は歩くよりほかはありますまい」 1-2-28この話を彼はかなり落ち着いてしたようだったが、それでも、語りおえようとして数滴の涙を落した。1-2-29この恋物語ほど感動的で、異様に思われたためしはなかった。1-2-30「ご無理までして」と私は言った。「この事件の秘密をうちあけてくれとは申しますまい。1-2-31しかし、何か私でできることがあったら、喜んでひとはだぬぐつもりですが」 1-2-32「ああ！」と彼は語をついだ。1-2-33私の前途にはなんの希望もありません。1-2-34ただ残酷な運命に従うだけです。1-2-35私はアメリカへ行きます。1-2-36アメリカなら、愛する者とせめて自由になれましょう。1-2-37私は友人のひとりに手紙を出したので、ル・アーブル・ド・グラースまで行けば、多少の援助が得られるだろうと思います。1-2-38ただ、そこへ行くまでが困ります。 1-2-39それに、せめてかわいそうなあの女に」と、彼は言って、自分の恋人を悲しそうにうちながめながら、「道中、何かしてやりたいのに、それも思うにまかせないのが残念です」

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/1

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