(1・1)アメリカ送りの娼婦一行に遭遇

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

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1-1-1この物語を語るためには、私がはじめて騎士グリュウに出会った、私の生涯の一時期まで読者をさかのぼらせなければなるまい。1-1-2それは私がスペインへ出発する五、六ヵ月ばかり前のことだった。1-1-3私は自分の隠遁所を出るようなことはめったになかったけれど、たまには娘のことも思ってやらなければと、小旅行くらいは時たま試みもしたが、それもできるだけ短期間にしていた。 1-1-4それはある日のこと、ルーアンからの帰りであった、1-1-5-というのは、娘には、私の母方の祖父から譲りうけた土地があったが、その相続の件で、請願のため、ノルマンジー高等法院へ行くことを娘から頼まれたからだった。1-1-6道をエブルーにとって、最初の夜はそこで泊まり、翌日は二十二、三キロ先のパシーで昼食をとることにした。1-1-7ところで、この町にはいると、町じゅうが大騒ぎなので、びっくりした。 「マノン・レスコー」のフランス地名 1-1-8町の人たちは家をとび出すと、群がりながら、ある下等な宿屋の戸口めがけて押しよせる。1-1-9見ればそこには二台の幌馬車があった。1-1-10馬はまだつながれたままだし、おまけに、疲労と暑さで湯気を立てているところをみると、これら二台の馬車は着いて間もないことがわかる。1-1-11この騒ぎのわけを知ろうと、私もしばらく足をとめたものの、この野次馬連中からは説明など引出せそうもなかった。1-1-12私の問いなどに耳をかすどころか、押しあい、へしあい、ごった返しながら、相変らず宿屋めがけて押しよせる。 1-1-13やっと、ひとりの巡査が戸口に現れた。1-1-14負い皮をつけ、火縄銃を肩にかけている。1-1-15私はその男を手招きしてこの騒ぎの訳をたずねた。1-1-16「なあに、たいしたことでもありませんわい」彼は言った。1-1-17「白首一ダースをさ、ル・アーブル・ド・グラースまで運んでって、船に積み込んで、それからアメリカ行きというわけさ。1-1-18かわいいのもいくらかいるんで、土百姓どもが興奮しているのも、てっきりこれでしょうなあ」 1-1-19この説明を聞いただけで私は通りすぎたかもしれなかったのに、たまたま宿屋からとび出てきたひとりの老婆の嘆声に思わず足をとめてしまった。1-1-20老婆は、ああ、むごいことです。1-1-21かわいそうです。1-1-22見てはいられません、と両手を合わせながら、叫んでいるのだ。1-1-23「どうしたというのかね？」私は言った。1-1-24「ああ！旦那さま」老婆は答えた。1-1-25「はいって、ごらんになるがいい、あれを見て、胸がつぶれずにいられましょうか！」1-1-26私も好奇心にかられて馬をおり、それを馬丁にあずけてから、人ごみをかきわけかきわけ、やっとはいってみると、なるほど、相当に感動的なものが目に入ったのである。 1-1-27十二人ほどの売笑婦が、六人ずつ、胴のあたりで鎖のじゅずつなぎにされていたが、なかにひとり、容姿といい、顔だちといい、娼婦風情には不似合いのような、もしこれを別の場所で見たならば、お嬢さまにも思われそうな女がいた。1-1-28彼女の悲嘆も、下着や衣服のよごれも、彼女を醜く見せるどころか、かえって尊敬とあわれみをそそるほどだった。 1-1-29そのくせ、見物人たちの目から顔をそむけるために、つながれた鎖がつづくかぎり、からだをよじ曲げようとしていた。1-1-30身をかくそうとするその努力がいかにも自然なのを見ると、それはつつしみ深い心からきているものらしかった。 1-1-31この哀れな一隊についてきた六人の看守も部屋にいたので、私は首領株を別室に読んでから、この美しい娘の身のうえについて、ニ、三の説明を求めたが、ごく普通の説明しか得られなかった。1-1-32「あの女はオピタル（訳注　または、オピタル・ジェネラルとも呼ばれる。一六五六年にパリに創立され、主として、娼婦や不良少女などを監禁した）から引っぱり出されてきたまでのことで」彼は言った。 1-1-33「もちろん、警視総監の命令でね。1-1-34あの女が、何か良いことをしたんで、あそこへぶちこまれたとは思えませんな。1-1-35わしも道々なんべんか声をかけてみたが、よっぽど強情とみえて、うんともすんとも言いませんわい。1-1-36わしにしたって、あの女だけをいたわってやれと命令を受けているわけじゃないが、それでも、すこしは面倒をみてやったつもりですがな。 1-1-37あれでもほかの仲間よりはいくらかましのように見えますんで。1-1-38そら、あそこに若い男がいましょう」巡査はつけ加えた。1-1-39「あの女がどうして落ちぶれたか知りたいなら、わしなんかより、あの男にきくほうが早道でしょう。1-1-40なにしろ、パリからつききりですからな。1-1-41それも泣きつづけでね。1-1-42あれはきっと兄貴か、色男にちがいありませんぜ」

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/1

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