(70)(1)クオ・バディス・ドミネ？

3-70-1-1次の日の明け方、カンパニア平原に向かってアッピア街道を進んでゆくふたつの黒い人影があった。3-70-1-2ひとりはナザリウス、もうひとりは使徒のペテロで、彼はローマと、そこで苦しみを受けている同信の仲間を後にして行くのであった。 3-70-1-3 3-70-1-4 3-70-1-5 3-70-1-6 3-70-1-7 3-70-1-8 3-70-1-9道は人通りがなかった。3-70-1-10都へ野菜を運ぶ農夫たちも、どうやらまだ車に馬をつけていないらしかった。3-70-1-11旅人たちがはいている木の靴が、山のほうまで国道にしきつめてある石だたみを踏むたびに、あたりの静けさを破ってこつこつとひびいた。3-70-1-12やがて太陽が丘の狭間からのぼったが、それと同時にふしぎな光景が使徒の目を射た。3-70-1-13金色の環が空を上へ上へとはのぼらずに、丘を下って道をこちらへ進んでくるように彼には思われたのである。 3-70-1-14 3-70-1-15 3-70-1-16 3-70-1-17 3-70-1-18 3-70-1-19 3-70-1-20 3-70-1-21 3-70-1-22 3-70-1-23 3-70-1-24 3-70-1-25「ラビ！3-70-1-26どうなされました」彼は心配そうに叫んだ。3-70-1-27ペテロの手からは旅の杖が、はたと地に落ちた。3-70-1-28目はじっと前を見つめている。3-70-1-29口があいて、顔には驚きとよろこびと恍惚(こうこつ)の色が浮んだ。3-70-1-30突然彼は両手を前にひろげてひざをついた。3-70-1-31口からはしぼり出すような叫び声が洩れた。3-70-1-32「キリスト！3-70-1-33キリスト！・・・・」。3-70-1-34彼はだれかの足に接吻するように頭を地につけた。 3-70-1-35長い沈黙がつづいた。3-70-1-36やがてむせび泣きに途切れる老人の言葉が静寂を破ってひびいた。3-70-1-37「クオ・ワディス・ドミネ？・・・・」。3-70-1-38その答えはナザリウスには聞こえなかったが、ペテロの耳は悲哀を帯びた甘美な声がこう言ったのをきいた。3-70-1-39「おまえがわたしの民を捨てるなら、わたしはローマへ行ってもう一度十字架にかかろう」。 3-70-1-40使徒は身動きもせず、一語も発せずに、顔をほこりの中に埋めたまま地面にひれ伏していた。3-70-1-41ナザリウスは、使徒が気絶したか、それとも死んだかと思ったほどであった。3-70-1-42けれどもペテロはやがて起き上がって、ふるえる手で巡礼の杖を取りあげ、ひとことも言わずに七つの丘の都（ローマ）のほうへ向き直った。3-70-1-43少年はこれを見るとこだまのように使徒の言葉をくりかえした。 3-70-1-44「クオ・ワディス・ドミネ？・・・・」。 3-70-1-45「ローマへ」使徒は小声で答えた。 3-70-1-46そして引きかえした。

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに制作してよい」

ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義

通称：オリジナル教会

2020/7/1

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