(2・1)二年後、港町カレーにて青年との再会

「騎士グリュウとマノン・レスコーの物語」

第一部

(２) 1/2

2-1-1あれから、二年にちかい月日が流れた。2-1-2その二年は、あの事件を完全に忘れさせていたのに、ひょっとした偶然から、私はその一部始終を知る機会に恵まれたのであった。 2-1-3私は弟子の某侯爵とロンドンからカレーに来ていた。2-1-4記憶に誤りがなければ、私たちは《金の獅子》という宿屋に泊まったが、ある事情で、その当日と、つぎの夜まで滞在していなければならなかった。2-1-5午後、街を歩いていると、あのパシーで出会った青年らしい人を見かけた。 「マノン・レスコー」のフランスの地名（カレー） 「マノン・レスコー」の町「カレー」の映像 2-1-6ひどくみすぼらしい風体で、それに顔色もこの前よりは青かった。2-1-7この町に着いたばかりらしく、古ぼけた旅行かばんをかかえていた。2-1-8それにもかかわらず、あの立派な容貌が目立ったので、容易に見誤るはずもなく、私はすぐに彼を思い出した。2-1-9「あの青年に言葉をかける必要があるんだがね」こう私は侯爵に言った。 2-1-10今度はその青年のほうが私を思い出したときの、その喜びようといったら、どう形容していいかわからないくらいだった。2-1-11「ああ！あなたでしたか」彼は私の手に接吻しながら叫んだ。2-1-12「あの死んでも忘れられないご恩のお礼をもう一度申し上げることができました」2-1-13私は彼がどこから来たのかたずねた。2-1-14つい先だって、アメリカから帰ってきたこと、そして、ここへは船でル・アーブル・ド・グラースから着いたことを、彼は手短に答えた。 2-1-15「お見うけしたところ、あまりお金もお持ちでないようですね」と私は言った。2-1-16「なんなら、私の宿の《金の獅子》へいらっしゃい。2-1-17私もすぐにもどりますから」2-1-18事実、私もすぐそのあとでもどった。 2-1-19彼のアメリカ旅行はどうだったか、その悲運の顛末を一刻も早く知りたかったのだ。2-1-20私は何かといたわってやり、宿にも命じて不自由のないようにさせた。2-1-21彼は私から身のうえばなしをせがまれようなどとは考えていなかったのだ。 2-1-22「あなたにずいぶんご恩になったのですから」と彼は言った。2-1-23「あなたに何か隠しだてでもしたら、いやしい忘恩として心がとがめます。2-1-24何もかもお話ししましょう。 2-1-25自分の不幸や苦労のことばかりでなく、私のふしだらな行為も、私のいちばん恥ずかしい意志薄弱のことも、お話しいたします。2-1-2きっとあなたは私を非難しながらも、同情してくださらずにはいられないと思います」

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オリジナル教会の権能：「あなたの思うがままに作成してよい」 ページ制作者　（ささくら宗）聖母マリヤ福音教会代表　笹倉正義 2020/6/2、22

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