３（４）聖母マリヤ

イエスの母マリヤについては、ルカによる福音書にだけ書いてある。イエス誕生にまつわるエピソードが中心である。しかも、それらの記事の内容は、マリヤにしかわからないことであり、彼女がだれかに話さない限り、世に現われなかったものである。つまり、聞き手がいて、その聞き手は、マリヤの話のうらをとることのできた人物であり、マリヤの信頼を得た人物であり、ランダムに聞き取った話を順序立てて要約できる能力の持ち主だったのである。

その文書は、冒頭にあるとおり、テオピロという人物に献呈されている。では、テオピロとはだれか、それはその文書自体に登場している人物のはずである。その人物こそは、イエスに褒められた異邦人、カペナウムの百卒長（ひゃくそつちょう）であり、ルカはその僕（しもべ）でなくてはならない。

すなわち、イエスの母マリヤへのヒアリングは、テオピロの命によってルカが行ったのである。洗礼者ヨハネの母エリザベツの老齢出産、イエス誕生にまつわる羊飼いたちのエピソードは、せいぜい３０数年前のことであるし、きわめてめずらしいことだったから、ルカがユダの山里とベツレヘムで確認できたのである。それが、主人がその命を惜しんだほどの、ルカの能力である。

マリヤは行動する少女だった。受胎告知した御使の言葉を確認するため、ナザレから１００Ｋｍ以上離れたユダの山里に行っている。同伴したのは、ヨセフでなくてどうしよう。エリザベツの妊娠、そして男子出産、それをヨセフに確かめさせてこその、二人の未来である。しかしマリヤ妊娠の次第は、秘密であり、イエスはヨセフの子として世間に認知されるのである。旅行中の婚前交渉ということでラビ（ユダヤ教の聖職者）は大目に見たかもしれない。その秘密の封印が解かれるたのが、テオピロによるルカのヒアリングだったのである。

新約聖書「ルカによる福音書」
1-34そこでマリヤは御使に言った、「どうしてそんなことがあり得ましょうか。わたしにはまだ夫がありませんのに」。1-35御使が答えて言った、「聖霊があなたに臨み、いと高き者の力があなたをおおうでしょう。それゆえに、生まれ出る子は聖なるものであり、神の子と、となえられるでしょう。1-36あなたの親族エリザベツも老年ながら子を宿しています。不妊の女といわれていたのに、はや六ヵ月になっています。1-37神には何でもできないことはありません」。1-38そこでマリヤが言った、「わたしは主のはしためです。お言葉どおりこの身に成りますように」。そして御使は彼女から離れて行った。

1-39そのころ、マリヤは立って、大急ぎで山里へむかいユダの町に行き、1-40ザカリヤの家にはいってエリザベツにあいさつした。1-41エリザベツがマリヤのあいさつを聞いたとき、その子が胎内でおどった。

マリヤは最初から聖母だったわけではない。イエスがどのような人間になるのか、神の力を得たとき、どう使うのか、それは試みられなければならない。自分の能力を過信し、神なぞいない、という人間にならないとどうして言えるだろう。

アブラハムも主に試みられたが、彼は迷うことなく、聞こえた声に従った。その信仰がイエスにみられるだろうか、自分に耐えられるだろうか、マリヤは深く思いつつも、明るく生きた。

旧約聖書「創世記」
22-1これらの事の後、神はアブラハムを試みて彼に言われた、「アブラハムよ」。彼は言った、「ここにおります」。22-2神は言われた、「あなたの子、あなたの愛するひとり子イサクを連れてモリヤの地に行き、わたしが示す山で彼を燔祭としてささげなさい」。22-3アブラハムは朝はやく起きて、ろばにくらを置き、ふたりの若者と、その子イサクとを連れ、また燔祭のたきぎを割り、立って神が示された所に出かけた。22-4三日目に、アブラハムは目をあげて、はるかにその場所を見た。

イエスは、一度だけ弱音をはいたと聞いた。渡される夜の園のできごとだった。イエスは、杯をこばもうとされたのである。それは人間の罪という汚物が満たされた杯であった。結局、イエスはそれを飲み、ヨハネから洗礼を受けた時に、天から下ってきた聖霊は去ってしまった。

そして、十字架の恥にさらされた。その十字架はバラバという者のために用意されたものだったが、彼は自由となり、代ってイエスが架けられた。イエスが人の罪を負ったというのは、このできごとのゆえである。十字架を見上げて、イエスが神の子であることを告白した百卒長こそ、誰あろうテオピロその人である。

新約聖書「ルカによる福音書」
23-47百卒長はこの有様を見て、神をあがめ、「ほんとうに、この人は正しい人であった」と言った。

イエスの母と女性たちは遠くからそれを見ていた。彼女らに注進したのは、イエス逮捕の現場から裸で逃げ出したマルコであろう。過越の安息日の夜が明けるのを待って、彼女らはイエスが安置された洞に出かけたが、空になっているのに驚いた。

その後も、祈りの中心にマリヤがいた。このときには、ルカはすでにエルサレムにいたのである。そして、ルカの文書の後半は、イエスが昇天し、聖霊が弟子たちに下るところまであったはずである。新約聖書では、その部分は、「使徒行伝」にまわされている。

この文書が、アンテオケで組織的に読まれ、ギリシャ人が受け入れたことで、イエスの母マリヤは、聖母マリヤとなられたのである。これは、聖母マリヤは、ユダヤ人では成しえなかった着眼点なのであり、キリスト教の根幹のひとつである。聖母マリヤの存在しないキリスト教会はないのであり、あれば異端である。
 
 
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2016/7/31 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
ささくら修道会