１．錬金術 １．錬金術
| 夜空のパズルの時代 奴隷社会においての主人で、暇があり、好奇心に満ちた学者の目は夜空に注がれました。そこには瞬きする星としない星とがあり、しないものはするものに対して相対的に動きが早いのでした。それは惑星と呼びました。また、しないものは恒星と呼びました。そこで、彼らはいくつかの謎を解くことに興味をそそがれたのです。 これらは、知的好奇心によるパズル解きのレベルで科学とは呼べないでしょう。また、時として尾をひく星が現れ、人々を驚かした天文ショーがありましたが、それは人の一生に一度あるかないかであって、研究対象にはなりませんでした。 赤道に近い農耕の国では、星座の運行が季節の変化と結び付けられ、実用的な天文観測が国家事業として営まれていました。雨季（洪水）、乾季、種をまく時期などを民に知らせる仕事です。惑星のパズル解きは、その実用研究からヒントを得たものでありましょう。彼らは、国家の蔵書を読む暇と、知識のあった者です。 この天文パズルを解く時代は、紀元４世紀にキリスト教がローマ帝国を席巻し終わった頃に終わります。科学技術はキリスト教によって安息の時代にはいったのです。 −−−−−−−−−−−−（ニュートンとケルビンの神）−−−−−−−−−−−−− NHKカルチャーラジオ 歴史再発見2012年４〜６月 ラジオ第２放送水曜日午前10:00〜10:30 「科学の歴史を旅してみよう」 コペルニクスから現代まで 小川慶太氏 ニュートンと神 「太陽、惑星および彗星という、このまことに壮麗な体系は、叡智と力とにみちた神の深慮と支配とから生まれたものでなくてほかにありえようはずがない。・・・また諸恒星の諸体系がそれらの引力によって相互に落下しあうことのないように、神はそれらの体系を相互に茫漠として果てしない隔たりに置かれたのである。この全智全能の神は、世界の霊としてではなく万物の主としてすべてを統治する」ピリンキピアの一節（引用先：中野猿人訳、講談社） ケルビンと神 １８７１年、イギリス科学振興協会での講演 「私には、自然選択による種の起源の仮説が生物学における進化の正しい理論であるとは思えない。・・・最近の動物学ではデザイン論の見地があまりにも失われ過ぎている、と私は確信する。・・・しかし、知的で慈悲深いデザインの存在を示す極めて強い証拠が、我々の周囲すべてにあるのだ。形而上学的あるいは科学的混乱のために、我々が一時的にデザインを忘れることがあったとしても、いずれ抵抗できない力で我々にもどって来る。そして自然の中に自由な意思の影響があることを我々に示し、また、すべての生物が、永続的に作用する唯一の創造者である神に依存していることを、我々に教えるのである」『ダーウィンをめぐる人々』（引用先：松永俊男、朝日選書） ただし、小川先生はニュートンとケルビンを褒めるために、彼らの思いを引用されたわけではない。むしろ、その逆の立場で、「偉人たる者が、なんで神なんかを」、という風に引用されている。 −−−−−−−−−−−−（ニュートンとケルビンの神）−−−−−−−−−−−−− 金属精錬技術の時代 そして、人々が科学らしい科学の時代を迎えるのは、錬金術がさかんになってからです。純度の高い金属を得る技術や合金からより性能の良い金属をつくる技術は武器製造に寄与しました。金属を溶かす熱源はコークス（石炭）でした。 黎明期の科学者たちは、安物の金属から金や銀を生み出す研究にいそしみました。万有引力で有名なニュートンも錬金術の研究をしていたとされています。彼は化学者でもあったわけです。また、不老長寿の妙薬を合成する研究もこれに当たります。その妙薬を病人に投与して、多くの人が死んだことがゲーテのファウストにも書かれています。 −−−−−−−−−−−−−−（ファウスト）−−−−−−−−−−−−−−−−−− ファウスト ゲーテ 池内紀訳（第一部） 集英社文庫ヘリテージシリーズ ワーグナー 偉い人はちがいますね！人々に尊敬の目で見られて、どんな気持がするものなんですか。才能ひとつでこんな身になった人こそ幸せですとも。・・・ ファウスト ・・・世には知られていないが、しかるべき人だった。自然や神秘に思いを馳せていた。ありきたりではあれ、自己流の考え方で、あれこれつとめて秘密を究めようとした。錬金術師の仲間入りをして、暗いところにひきこもり、手あたりしだいの処方箋に合わせて奇妙な調合をしていた。処方箋には赤い獅子が描いてあった。大胆にいいよってくる求婚者のように、ぬるま湯のなかで百合とめあわす。これを炎につつんで花嫁の寝床にすると、ガラスに若い女王があらわれる。そんなふうにして薬をひねりだした。患者は死んだ。治ったのはなんのせいやら。この山、あの谷と、父と子がべつの疫病をはやらせてまわったぐあいだ。どっさり人を殺したのに、やんやと世の人にほめそやされる。 訳注 Ｐ６６処方箋には赤い獅子が描いてあった。 錬金術の用語で、「赤い獅子」は水銀、「百合」は硫黄、「若い女王」は霊薬。 −−−−−−−−−−−−−−（ファウスト）−−−−−−−−−−−−−−−−−− 科学技術は、キリスト教にとっては、魔術でありましたので、生まれながらの科学者たちは知的好奇心と、信仰的うしろめたさとの板ばさみ状態でした。この科学技術安息の時代は、プロテスタント教会がローマ教皇に対立する勢力の支援を受けるようになって、緩んでいきます。彼らの知的好奇心が国家経営や経済と結びついてプロテスタント教会を支援した時、科学を「魔術」として排斥していたカトリック教会の権威は低下していきました。 |
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