９章「許婚(いいなずけ)式の夕(ゆう)」

ビルフォールは、自分たち親子の絶対絶命の事態を、ダンテスの親子の運命とすりかえた。この事件の関係者それぞれの運命の歯車が狂ってゆく。

目次

９（１）インサイダー　1-9-1-48「もう一本お書きいただきたいと思うのですが」。「誰宛てにだ？」。「王さま宛てです」。「王さま宛てだと？」。「そうです」。「だが、わしには陛下に手紙などはあげられないが」。「あなたにお願いするのではありません。そのことをサルビユさんに頼んでいただきたいと思うのです。

９９（２）戸口の幽霊　1-9-2-6侯爵、たった一言申しあげておきます。じつはわたくしが、『い』の一番に王宮にかけつけましたら、もうそれだけでわたくしの一生は保障されます。というわけは、王さまにたいして、終生お忘れになれないような御奉公をすることになるのですから」。「そうか。それならすぐに行って支度をするんだ、わしはサルビユを呼ばせよう。そして君の通行証になる手紙を書かせる」。

９（３）閉じない傷口　1-9-3-15もしこのとき、あのルネのやさしい声が、彼の耳もとに赦免を願うために響きわたったとしたらどうだったか。もしも美しいメルセデスが入ってきて、こう言いでもしたらどうだったか。「われらをみそなわし、われらを審きたまう主の御名において、どうかわたくしの許婚の夫をお返しください」。

９（４）それぞれの情景　1-9-4-2ルネの姿を見るなり、ビルフォールはふるえあがった。彼女が、きっとまたダンテスの赦免を願うに違いない、と思ったからのことだった。だが、ああ！これこそわれらが利己心の悲しさというもの、美しい少女は、いまその心にただ一つのことしか考えていなかった。

次へ

引用者：2016/6/14-16　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会