８．時代遅れ

「朝に命じてみよ」パールバック 原題：Ｃｏｍｍａｎｄ　ｔｈｅ　Ｍｏｒｎｉｎｇ 原作者：Pearl Sydenstricker Buck 日本語訳本名：「神の火を制御せよ」原爆をつくった人々 丸田浩　監修 小林政子　訳 径書房

P385 スティーブはシカゴに帰り、見聞したことをバートに語った。彼は日本から帰って来たばかりだったが、日本で目にしたことをあまり語らなかった。 「話しても無駄だよ。我々はすでに時代遅れなんだ、スティーブ。四年間、みんなであのプロジェクトをやった。そして成功させた。原子爆弾をつくり、戦争を終らせた。だが、そいつは我々が『装置』と呼んでいただけの代物さ。ただの装置だ。そうして我々は使い古しになった。若い連中は我々のことも原子爆弾のことも、もう念頭にない。軍の連中があれをいじり回すだろうが、しょせん彼らも時代遅れだ。連中がそれに気づくには時間がかかるだろう。永久に気づかないかも知れん。だが、若い連中ときたらどうだ！我々が神の火を見つけてやったのに、我々からむしり取った。彼らは空飛ぶ羽根で宇宙を走り回っている。・・・ああ、神よ」バートは頭をかきむしり、足を椅子に投げ出した。 「親父を思い出すなあ。心はどんどん昔に返る。私はどんどん老人になっていく。メサでの華々しい日々が終ってから、老いる一方だ。私の親父は大きな声で旧約聖書を読み聞かせたがった。新約聖書よりよっぽど好きだった。かぶりつきたいぐらい好きだと言っていたよ。よく、ヨブ記を引用して説教したもんだ。神はヨブに対し、なぜおまえは、人間なら誰しも少しは持つ苦しみを我慢できないほど、自分が崇高で強いと思うのかと意地悪く尋ねる。そして、『おまえは朝に命令したことがあるか』とも。 「ヨブ記」は旧約聖書である。イエス・キリスト以前の、ユダヤ人のものである。この科学者がユダヤ人で、ユダヤ教徒なら、言っていることは正しい。しかし、キリスト教徒なら、未熟である。 神はヨブをたしなめたんだと思う。ヨブは神との対話が終ったとき柔和でへりくだった人間になっていた。私はヨブの気持がわかる。私の気持のありようと同じだ。だが、近ごろの若い連中のことはわからない。君や我々の仲間みんなで研究したエネルギーで最初に宇宙に飛び立つ者、最初に月に行く者、彼らはこのちっぽけな地球上のみんなに向ってきっと叫ぶだろうという気がするよ。『おーい、僕は朝に命令してやったぜ！』とな」。 「ヨブ記」 新約聖書の意味を知らないこの人たちは本当にキリスト教徒なのだろうかと思ってしまう。「ヨブ記」はまず神と悪魔との会話ではじまる。最初に神が悪魔にヨブ信仰のを褒めた。それに対して悪魔は、世界をめぐって人間というものを知っているので、ヨブを試させてほしいと言うのである。すなわち、ヨブに災を下したら彼の本当の姿がわかる。神は条件を付けて悪魔の願いを聞き届けた。 しかし、冒頭の緊張感はすぐに消えた。悪魔に代ってヨブの友人たちが登場し、ヨブの災についての長々とした論戦が展開される。永遠に続くかと思われた議論は、突如として神がヨブに向って語りかけることで中断されてしまう。この神は次元の違うことをまくしたててヨブを威圧する。冒頭に悪魔と語り、ヨブの信仰を褒めた神ではない。そして、神は言いたいことを言ってしまうと、これまた突如として、ヨブの健康と財産とを回復した。 21世紀に入って、イランが核開発を国是にかかげた。これに対してイスラエルが激しく反発して、先制攻撃するといきまいている。アメリカとロシヤが核兵器の９０％以上を保有し、人類を何度でも滅ぼせる火力を誇っている。それが現状である。 しかし、使わないままに開発者たちは死に絶え、設備は老朽化し、漏電など想定外の誤射事故が起こって、核弾頭を積んだミサイルの自動発射システムが作動する。その時、誰もシステムの解除する方法を知らないということが有り得る。１００年、２００年、３００年後の話ではあるが。 贖罪のエネルギーのヒント さて、核エネルギーの概念が分かるようになった人類は次のことが分からなければならない。核の熱エネルギーは核分裂あるいは核融合によって質量が崩壊する時に発生する。減少した質量が生み出す熱エネルギーは、たとえば石油や石炭が燃える化学変化によるものに比べると、天文学的に大きい。つまり核エネルギーは、神の単位を持つ。 ここに我々には次のヒントが与えられる。すなわち、人がその命を「願かけて」自ら断つならば、それを見た人々に、その贖罪の気持を起こさせる。もし捨てられたものが、無原罪の命であり、あらかじめ人の罪を負ったものだとしたら、どうであろうか。生前のイエスの体重と復活後の体重とに質量の崩壊があれば、神の単位の贖罪エネルギーが放出されたに違いないのである。核の質量が損なわれる際のエネルギーについての理解が、神の命が損なわれる際の贖罪の大きさに気づく援けになったとすれば、イエスの御国おいて、広島と長崎の犠牲は人類永遠の記念碑となり得るのである。(2012/11/29)

戻る

「原爆をつくった人々」目次

2013/2/23 聖母マリヤ福音教会・「取説」担当　笹倉正義 聖句引用：日本聖書協会　口語訳聖書 旧約聖書（１９５５年改訳） 新約聖書（１９５４年改訳） 2014/4/28、2022/1/22