４．アリナ夫人 ４．アリナ夫人
| コンラド従男爵の恋 また、次に揚ぐるは、今より約二十年前（西暦１８６６年）わが英国の法曹界において深甚なる注意の焦点となり、海外の専門雑誌にも伝へられし事件なれば、あるいは記憶に新なる読者もあるべけれども、未知の人々のため抄録（原文から必要な部分だけを書き抜くこと）せむに、スコットランドの片田舎に住める貴族にして赤髪富豪のきこえ高きコンラド従男爵といふがあり。年四十に及びて数マイルを隔てたる処に在る「鷹が宿」という由緒ある家柄に生まれしアリナと呼べる若き女性を夫人として迎えけるが、この女性は元来絶世の美人なりしにも拘はらず、なぜか八方より申込み来る婚約を悉（ことごと）く謝絶し居り。尼となりて修養院に入らむと、志し居りしものなりしを、八方より手を尽くして、辛うじてもらひ受けしものなりければ、従男爵の満悦たとふべくもあらず。 身方（自分の属する側）の親戚知友はもとより新夫人の両親骨肉及「鷹の宿」隣家に住める医師、兼、弁護士の免状所有者にして、篤学の聞え高きランドルフ・タリスマン氏までも招待して、盛大なる華燭の典を挙げ、付近住民をして羨望 密通疑惑 去る程にアリナ新夫人はやがて、従男爵の胤を宿しつ。月満ちて玉の如き男子を生み落しけるが、その児の顔貌一眼見るより従男爵の面色は 然るにこれに対してアリナ夫人は不思議にも一言の弁解をも試みんとせず。その夜深く その後、この事件は訴訟問題となり、アリナ夫人の実父とコンラド従男爵とは法廷に於いてアリナの貞操に関し白黒を争ふこととなりしが、従男爵は、その黒髪青年の肖像画と同じ人物の存在を固く主張せしに対し、アリナ夫人の実父の味方となりし医師、兼、弁護士ランドルフ・タリスマン氏は頑強なる抗弁を試みて一歩も退かず。結局同氏はわざわざフランスに渡りて件の肖像画を描きし画工を伴ひ来り、その画像が元来イギリスに於いて描かれしものに非ず、スペインの一闘牛士の死亡したるに依り、その愛人の好みに任せて狩猟服を着たる姿を該画工が執筆せしものなるが、評判の傑作なりし為めその製作の途中に於いて盗難に 次いでタリスマン氏は、画面上に印せられたる新旧幾多の接吻頬ずりのあと、涙の痕跡、及画面に身を支へたる指の痕と、アリナ夫人の身長指紋その他が完全に一致する処より、アリナ夫人が兼ねてよりこの画像に叶わぬ恋心を捧げ居りし事を立証し、同夫人がかつて尼寺に入らむとせし心理の真相を明白にして、その貞操の肉体的に純潔不二なる事を各方面より詳細にわたりて論断し、更に進んで前掲、ギリシャ、某王妃の例を挙げて、かかる事例が存在の可能なる事を説破したる後、一段と語気を強めて云ひけるやう。 「近く、吾がイギリスに於いても遺伝学士、かかる現象の存在し得ることを説明し得べき実例あり。最近ラッドレー付近の一種馬場に於いて飼育せられし一牝馬（ひんば）は、今より三年以前に見世物用の斑馬と交尾して一匹の混血児を生み、飼主をして奇利を博せしめし事あり。しかるにそれより二年後の昨年度に於いて該牝馬を普通の乗馬と交尾せしめたるに、奇怪にも、以前の配偶たりし斑馬と同様の斑紋を臀部（でんぶ）より大腿部にかけて止めし仔馬を生みたるを以って、現在斯界（しかい・その道を専門とする社会）の専門家、及び、遺伝学者間の論議の中心となり居り、しかも −−−生物の親子の外貌性格の相似は、その親の心理に潜在せる深刻なる記憶力が、その精虫と卵子とに影響したるものに外ならず−−−直接の父母以外の、他人に酷似せる子が、姦通の事実なくして生るる事あるはこの道理に依るもの也−−− 聖母マリヤの胎になされた無原罪の御宿りは、それこそ人智では量り得ないことになる。 と云ふに在り、故に、吾国の過去に於ける幾多の裁判が、その当時の最も有力なる学理学説によりて決定せられし先例に依る時は、この訴訟も亦、此説を真理と認めて断定せらる 之を以て之を見れば、古来貞操に関する疑を受けて ＜＞訳者曰く＝以上を要するに、生物界に於ける霊意識の作用の玄怪不可思議にして現在に於ける科学知識のよく追随補足し得べきものに非ざるは、単に妊娠に関する前記二三の特例に照すも斯（か）の如く明瞭なる事然り。 |
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2013/3/15 オリジナル教会 （初代代表）笹倉正義
2019/11/20
聖句引用：日本聖書協会 口語訳聖書
旧約聖書（１９５５年改訳）
新約聖書（１９５４年改訳）
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