11．シェッファー 11．シェッファー
| これ以降は要点だけを記すと、フストはグーテンベルクの有能な弟子ペーター・シェッファーを共同経営者に引き抜き、『マインツ詩篇』『四八行聖書』などの出版で成功を収める。フストやシェッファーをして世界最初の本格的印刷事業者と見る向きがあるのはそのためだ。 この話は、ベンチャー・ビジネスを起業している者にとって、現在の『 関西学院ＨＰより 書名 [Biblia latina, 42 lines (Gutenberg Bible)] 出版者名 [Johann Gutenberg and Peter Schoeffer] 出版年 [1455?] イスカリオテのユダの汚名 シェッファーについてつけ加えると、グーテンベルクを師と仰ぎながらもフストとも個人的な関係を保ち、後年フストの娘と結婚している。フストの支援でパリ大学でラテン語を習得した学識に加えて、能筆家としての才能や金属加工に関する基礎的な技能を持ち合わせていたため、フストの片腕として辣腕を振るったとされる。もっとも、この若くて有能な青年は、フストの娘を妻として迎えたために、師のグーテンベルクを裏切ったとの悪評からまぬがれないのだが。 その手段はどうあれ、フストは実業家として成功し、行商しなくてよくなったのである。歴史は、余分なものをそぎ落としてしまう。師を裏切った者と見なされるのは最悪の事態である。何としても、フスト一族はグーテンベルクの痕跡を消してしまう必要があった。金の力は大きい。十五世紀にもなって、生年月日などの情報が消せるのは、よほどのことであり、使われた金の力を彷彿とさせる。 一方、グーテンベルクはその後も自ら設立した印刷工房や他の工房の協力を得て印刷業を続ける。その限りでグーテンベルク工房とフスト・シェッファー工房の並立状態が続くのだが、惜しむらくはグーテンベルクらしい満足すべき業績を残すことはなかった。 それはそうであろう。グーテンベルクの痕跡が意図的に消されたのだとしたら。 晩年には大司教の廷臣となり、老後の生活は辛うじて保証されたものの、三年後の一四六八年にはこんな言葉を残して波乱の人生を閉じている。「この発明は、無知の闇を消し去り、人々の間に光を照らすことになるだろう」 この言葉が彼の言葉であったとして、その意味が分かるだろうか。グーテンベルクは、ラテン語聖書を隅から隅まで読む機会があったのである。ラテン語を読めた彼は、聖書に秘められた魂の秘宝を思い、これが大量に印刷できれば、キリスト教の真の姿をより多くの人々が知るようになると思ったのであろう。「無知の闇」とは、キリスト教の本当の姿を知らない、ということである。一般の人々は、聖書を読めないからである。彼の功績、活版印刷による大量印刷という土壌ができてこそ、この後、マルチン・ルターのドイツ語訳聖書の出版が可能となるのである。それによって、カトリック教会からの解放を望む勢力が勢いづいて行くのである。 その言葉通りで、グーテンベルク発明の活版印刷術は、一五〇〇年までに二五五の印刷個所で少なくとも二〇〇〇万部の印刷に役立てられたとされる。そしてグーテンベルクの最高傑作と目される『四二行聖書』が、五五〇年以上経った今日なお不朽の印刷物として評価されているのは、「稀少・高価ゆえに尊いのではなく、美しいゆえに尊い」（大輪前掲書）からなのだろう。 印刷物には書かれていないが、放送では、フストがグーテンベルクが死去する一年前にフランスを旅行中に流行病で死んだことが語られた。グーテンベルクもそのことを知ったであろうが、フスト死すの報に接した彼の心中はいかなものであったろうか。聖書を読破していた彼は、とっくの昔に、自分を騙したり裏切ったりした者たちを、イエス・キリストを信じる信仰のゆえに、許していたであろう。しかし、人生の絶頂期のはずの時に、突然の死を迎えたフストは、「無知の闇」にとどまり、行くべき所に行ってしまった。 発明家の運命を決したのは、借金であった。グーテンベルクはドイツ人気質まるだしの技術者であり技能者であった。彼は、ユダヤ人気質の行商人フストの意図を見抜けず、個人的に「借金」をしてしまった。自分の分け前を多くするためでもあったろう。グーテンベルクはフストの人当たりの良さを、自分に好意的な人物と勘違いしてしまったのだ。グーテンベルクはフストにだけは、工場の秘密を見せたであろう。それが、災を招くのである。 （イザヤ書） 39-3時に預言者イザヤはヒゼキヤ王のもとに来て言った、「あの人々は何を言いましたか。どこから来たのですか」。ヒゼキヤは言った、「彼らは遠い国から、すなわちバビロンから来たのです」。39-4イザヤは言った、「彼らは、あなたの家で何を見ましたか」。ヒゼキヤは答えて言った、「彼らは、わたしの家にある物を皆見ました。倉庫のうちには、彼らに見せなかった物は一つもありません」。39-5そこでイザヤはヒゼキヤに言った、「万軍の主の言葉を聞きなさい。39-6見よ、すべてあなたの家にある物およびあなたの先祖たちが今日までに積みたくわえた物がバビロンに運び去られる日が来る。何も残るものはない、と主が言われます」。 |
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