３（６）ギリシャ東岸の小島

(3-192)(3-193)(3-194)(3-195)(3-196)(3-197)(3-198) (3-199)(3-200)(3-201)(3-202)(3-203)(3-204) 船が沖へ出ると、われわれはもはや陸を目にすることがなくなりました。まわりには、単調な大空（おおぞら）と、大洋（たいよう）が広がっていました。やがてわれわれの頭上（ずじょう）に黒雲がつきまとい始めました。周辺（しゅうへん）は暗くなり、風と雨が混じってきました。暗黒の中で、波が逆立（さかだ）ちました。風どもが急速に海を翻弄（ほんろう）し、海面が高く盛り上がります。そして、不気味（ぶきみ）な大渦（おおうず）に掻（か）き回されて、われらの船団は散々（ちりぢり）になってしまいました。 雨雲（あまぐも）は太陽（たいよう）を覆（おお）い隠（かく）したまま、湿った夜が天空（てんくう）を遮断（しゃだん）していました。黒い雲を破って稲妻（いなずま）が駆け抜けていきます。われわれはどこを航行（こうこう）しているのかわからず、あてもなく暗い波間をさまよっていたに過ぎません。あのパリヌルス（舵手）さえ、空を見て昼か夜かの見分けがつかず、海に翻弄されて進路をたどることができなかったのです。まるまる三日三晩（みっかみばん）、われわれは漆黒（しっこく）の海を彷徨（さまよ）い、太陽を見ることも星空を仰ぐこともできませんでした。(3-192-204) (3-205)(3-206)(3-207)(3-208)(3-209)(3-210)(3-211) (3-212)(3-213)(3-214)(3-215)(3-216)(3-217)(3-218) 四日目（よっかめ）にようやく陸地が水平線に姿を現しました。遠くに山々が見え、煙が立ちのぼっていました。われわれは帆を下ろし、懸命（けんめい）に櫂（かい）をこぎました。水夫（すいふ）たちの働きで水しぶきが上がり、船は、濃紺（のうこん）の水上（すいじょう）を滑るように進みました。 しかし、こうしてやっとわたしを波から引き上げたのは、ストロパデスの岸辺（きしべ）でした。ギリシャ語でストロパデスというのは、広大（こうだい）なイオニア海（かい）に浮かぶ双島（ふたつしま）の名です。（イオニア海はギリシャの東側の海で、その少し北の対岸はイタリア半島になる）。そこには恐ろしいケラエノをはじめ、ハルピュイアという怪鳥（かいちょう）たちが住んでいました。彼女たちはピネウス王の館（やかた）を閉鎖に追い込んだあと、その食卓を離れて、脅されながらこの島に移ってきた鳥たちです。 こんな悲しい怪物がほかにいるでしょうか。これよりひどい、いかなる災（わざわ）いも、神々の怒りも、ステュクス川（冥界（めいかい）の川）の波から押し寄せたことはないのです。彼女たちは、処女の顔を持つ鳥でした。腹中（ふくちゅう）から汚い排泄物を垂れ流し、鉤（かぎ）のように曲った爪（つめ）をもち、顔は飢（う）えでつねに青ざめていました。(3-205-218) アポロドロス（ギリシャ神話） 1-9-21そこから（ベブリュクス人の地）船出してトラキアのサルミュデソスに着いた。ここには両眼が盲（めし）いた予言者ピネウスが住んでいた。ある者は彼がアゲノルの子であると言い、他の者はポセイドンの息子であると言っている。彼は、あるいは人間に未来を予言したために神々によって、あるいは継母の言を信じて自分自身の子供たちを盲目としたためにボレアスとアルゴナウタイの手によって、あるいはプリクソスの子供たちにコルキスからギリシャに行く航海の方法を教えたためにポセイドンによって、盲目とされたと言われる。 （Ｐ６０） 神々はまた彼に対してハルピュイアを遣（つか）わした。彼女らは羽を持っていて、ピネウスのために食事が用意されると、空から飛び降りて来て大部分を掠（サラ：リャク、ラク、かす・める）って行き、僅（わず）かに残されたものは臭気にみちて食べることができなかった。アルゴナウタイが航海に関して彼から教わりたいと欲した時、彼は、ハルピュイアから自分を救ってくれれば、航海上の忠告を与えようと言った。 参考：映画「アルゴ号の冒険」のハルピュイアの映像 (3-219)(3-220)(3-221)(3-222)(3-223)(3-224) さて、ようやく辿（たど）り着いたわれわれは、河口（かこう）に船をつなぎました。しかしここでわれわれは意外なものを目にしました。たくましい牛の群れが、野のあちこちに散らばっていたのです。また草の上には山羊（やぎ）の群れも目につきましたが、番人の姿がありません。 われわれは剣を抜いて突撃し、ユピテルをはじめ神々を、この御馳走（ごちそう）へと招きました。われわれは湾曲（わんきょく）した浜辺（はまべ）に臥所（ふしど）をしつらえ（古代の宴席）、豪華な宴を張ったのです。(3-219-224) (3-225)(3-226)(3-227)(3-228)(3-229)(3-230) (3-231)(3-232)(3-233)(3-234)(3-235) すると突然、おそろしい滑空音（かっくうおん）とともに、山々からハルピュイアの群れが襲いかかってきました。鳥たちは、やかましく翼を震わせながら、食物に向って突進し、次々と穢（きたな）い足をつけ、すべてを台無（だいな）しにしてしまいました。彼女らは喧（かまびす：やかましい）しい鳴き声をあげ、あたりに耐え難い臭気（しゅうき）を発散させました。われわれは一旦（いったん）そこを退散（たいさん）し、場所を遠くに移し、空洞（くうどう）になった断崖（だんがい）の下（した）でやりなおすことにしました。 木々や恐ろしい影が、そこをすっぽりと覆っていました。われわれは食卓と祭壇を用意し、再度（さいど）火を起こしました。するとまたも、どこから飛来（ひらい）するのか、先程とは違った方角（ほうがく）から奴らが現れ、騒々しい鳴き声をあげて周囲を旋回し、鉤形（かぎがた）の足を突き出し、食物に口をつけて汚（よご）しにかかりました。わたしは一同に命じました。武器を取れ、今からこの悪辣（あくらつ）な族（やから）と戦（いくさ）を行うと。(3-225-235) (3-236)(3-237)(3-238)(3-239)(3-240)(3-241)(3-242)(3-243)(3-244) 仲間はただちにこれに応じました。剣を草に包み、盾（たて）もすべて隠（かく）しました。鳥どもの数はますます増え、湾曲した岸辺には奴らの鳴き声がこだましました。この時、高い見張り所に陣取っていたミセヌス（ラッパ手（しゅ））が、青銅筒の喇叭（ラッパ）を吹き鳴らしました。一同は突撃を開始し、奇妙な戦闘が始まりました。 兵たちは、穢（きたな）い怪鳥に向って剣戟（けんげき）をくりかえしましたが、羽にも背中にも打撃を与えることができません。奴らの逃げ足は速く、食べかけの食物と汚い足跡を残して、さっさと天高く逃れ去っていきます。 (3-236-244) (3-245)(3-246)(3-247)(3-248)(3-249)(3-250)(3-251)(3-252) ただ一羽（いちわ）、ケラエノのみが岸壁（がんぺき）の頂上（ちょうじょう）に止まりました。この不吉な予言鳥（よげんどり）は、胸の張り裂けるような声でこう叫びました。『おまえらは、牡牛（おうし）を倒し、若牛を屠（ほふ）るため、戦（いくさ）をしかけ、その上、またもわれらと戦わんとや。ラオメドン（プリアムス王の父）の一族（いちぞく：ウカラ）どもよ、われらハルピュイアを伝来の祖国より追放せんとてか。われらにはなんの咎（とが）もないぞえ。 されど、さような心底（しんてい）ならば、これから述べること、しっかと胸に叩（たたき）き込め。これは全能の父なる大神（おおかみ）がポエブス（アポロ）に告げたもうた予言じゃ。それをポエブス・アポロがわれに告げたのじゃ。われこそは、夜叉（やしゃ：フリアという）どもの親玉にあらせられる。そのお言葉をよっく聞け。(3-245-252) (3-253)(3-254)(3-255)(3-256)(3-257)(3-258)(3-259) (3-260)(3-261)(3-262) おまえらはイタリアへ向けて進んでおる。風またそれにかなう。おまえらはやがてイタリアへ着き、そこに錨（いかり）をおろすこと、かなうべー。されど、おまえらが都を城壁で囲むまえに、苛酷（かこく）な飢餓（きが）がおまえらをおそうべー。われらを殺戮（さつりく）した廉（かど）で、おまえらは、その顎（あご：アギトという）にて食卓を噛み砕き、食らうべー』。 鳥（とり）はこう言うと、羽を振りながら森の中へ消え去りました。一同に悪寒（おかん）がはしり、血がぞっとして凍（こお）りつきました。突然（とつぜん）、皆の心から闘争心がなくなりました。皆、戦いはもう結構（けっこう）だ、誓約をあたえ、許しを請い、和をむすんでほしいと迫りました。相手が女神たちであろうと汚（けが）らわしい鳥たちであろうと、そんなことはどうでもよいというのです。(3-253-262) (3-263)(3-264)(3-265)(3-266)(3-267) 父アンキセスは浜辺に出、天に両手のひらを広げて、大いなる神の御加護を祈念（きねん）し、成就（じょうじゅ）のあかつきの、お礼の奉納（ほうのう）を約束しました。『よろずの神々よ、この災難（さいなん）をせきとめたまえ。禍（わざわい）を転じて福となしたまえ。寛仁（かんじん）のみこころを以（も）って、敬神（けいしん）の者らを見守りたまえ』。こう言って父は、舫綱（もやい・づな）を解き、帆綱（ほづな）を繰り出す（帆綱は未使用時はコイル状に巻かれる）よう命じました。(3-263-267)

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2015/10/5 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会