８（６）無理な相談

1-8-6-1翌日、同じ時刻に獄丁がはいってきた。1-8-6-2「どうだね！」と、獄丁がたずねた。1-8-6-3「昨日（きのう）より落ちついたかね？」。1-8-6-4ダンテスはなんとも答えなかった。1-8-6-5「さあさあ、」と、獄丁が言った。1-8-6-6「少し元気を出したらどうだ！1-8-6-7何かわしにできることで、してほしいことがありはしないかな？1-8-6-8言ってみろ」。1-8-6-9「典獄さんに会って話がしたいんだ」。1-8-6-10「なんだと？」。1-8-6-11獄丁は、いらいらしたようすで言った。1-8-6-12「それは出来ない相談（そうだん）だって言ったじゃないか」。 1-8-6-13「なぜだ、出来ないとは？」。1-8-6-14「牢の規則（きそく）というのがあってな、囚人にそういう望みは許されないんだ」。1-8-6-15「ではいったい、なにが許してもらえるんだ？」と、ダンテスがたずねた。1-8-6-16「金を払ってもっと食事をよくしてもらうこと。1-8-6-17運動と、それにときどき本を許してもらえる」。1-8-6-18「本なんかほしくない。1-8-6-19運動なんかもしたくない。1-8-6-20食事もこれでけっこうだ。1-8-6-21僕の望みはたった一つ。1-8-6-22典獄さんに会いたいんだ」。 1-8-6-23「いつもおなじことをくり返して困らせるようなら、これからは食物を持ってきてやらないぜ」と、獄丁が言った。1-8-6-24「それは勝手（かって）だ！」と、ダンテスが言った。1-8-6-25「食物を持ってこないんだったら、飢（う）え死にしてやるばかりだから」。1-8-6-26こうしたダンテスの言葉の調子（ちょうし）から考えて、獄丁はダンテスが喜んで死にかねないことを見てとった。 1-8-6-27そして『そろばん』ずくから、囚人一人が獄丁にとって日（ひ）に十スー（５０円Ｘ１０＝５００円）ほどの収入（しゅうにゅう）になることを思った彼は、ダンテスの死ぬことによって生ずる損害のことを考えた。1-8-6-28そして、声をやわらげると、「な、お前さんの言うことはそれはできない相談だ。1-8-6-29もうそんなことを望むのはやめたがいい。1-8-6-30前例（ぜんれい）からいって、願い出によって典獄（てんごく：刑務所長の旧称）さまが囚人の室まできたなんていうことはないんだからな。 1-8-6-31ただしだ、おとなしくしてるがいい、そうしたら運動をゆるしてもらえる。1-8-6-32するとお前さんが運動をしているとき、いつか典獄さまがお通りになるかもしれない。1-8-6-33そうしたらお伺（うかが）い申すんだ。1-8-6-34そのとき典獄さまが返事をしてくださるかどうか、それは典獄さまのお心（こころ）しだいというわけだ」。 1-8-6-35「だが、そうしたときまで、僕（ぼく）はどれくらい待たなくてはならないんだ？」と、ダンテスが言った。1-8-6-36「そうさなあ・・・・」と、獄丁は言った。1-8-6-37一ヶ月（いっかげつ）、三ヶ月（さんかげつ、半年（はんとし）、まあ一年（いちねん）かな」。1-8-6-38「それは長すぎる」と、ダンテスが言った。1-8-6-39「僕はすぐに会いたいんだ」。1-8-6-40「やれやれ・・・・」と、獄丁が言った。1-8-6-41「そんなできない相談ばかり言うんじゃない。1-8-6-42でないと、二週間もたたないうちに、お前（まえ）気違（きちが）いになっちまうぜ」。1-8-6-43「そうか、そう思うか？」と、ダンテスが言った。

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引用者：2016/6/13　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書