６（４）話題セント・ヘレナ

1-6-4-1「そのとおり」。1-6-4-2サン・メラン氏の旧友であり、またアルトワ伯の侍従（じじゅう）であるサルビユ伯爵が言った。1-6-4-3「そのとおり。1-6-4-4ところが御承知のことと思いますが、あの男（ナポレオン）は、神聖同盟によって追い立てられることになりましたよ」。1-6-4-5「そう、わたしたちがパリを出発するとき、そんなことが問題になっていましたな」と、サン・メラン氏が言った。 1-6-4-6「だがいったいどこへ送るというんでしょう？」。1-6-4-7「セント・ヘレナです」。1-6-4-8「セント・ヘレナ？と申しますと？」と、公爵夫人がたずねた。1-6-4-9「ここから二千海里（かいり：１．８５ＫｍＸ２０００＝３７００Ｋｍ）、赤道（せきどう）の向こうの島なのです」と、伯爵が答えた。 1-6-4-10「けっこうですわね？1-6-4-11ビルフォールさんもおっしゃるように、あんな男を、その生まれ故郷のコルシカ（島）と、いまもその義兄弟が王になっているナポリのあいだ、しまもあの男が自分の息子のために王国をこしらえてやろうとまでしたイタリーのすぐ鼻のさきにいさせるなんて、まったく気ちがい沙汰ですわ」。1-6-4-12「ところが不幸にして、１８１４年の条約というやつがあります」。ビルフォールが言った。1-6-4-13「そしてナポレオンに手を触れるとなると、どうしてもその条約に抵触（ていしょく）します」。1-6-4-14「かまうもんですか。条約なんか眼中に置かないでいいんですよ」と、サルビユ氏が言った。 1-6-4-15「あの不仕合せなダンギャン侯（こう）を銃殺させたとき、ナポレオンは条約のことを念頭に置いていましたかな？」。1-6-4-16「そうですわ」と、侯爵夫人は言った。1-6-4-17「つまりこうなるわけなんですわ。1-6-4-18神聖同盟は、ヨーロッパをナポレオンの手から救い出す。1-6-4-19そしてビルフォールさんは、マルセイユをナポレオン党の手から解放なさる。1-6-4-20王さまは、君臨（くんりん）なさるか、なさらないか、どちらか一つにきまっています。1-6-4-21君臨なさるとなった以上、王さまの政府は強い力を持ち、その代表者たちは剛直（ごうちょく）でなければなりませんもの。1-6-4-22これは、悪を防ぐための『てだて』ですわ」。 1-6-4-23「残念ながら、」とビルフォールはほほえみながら言った。1-6-4-24「検事は、いつも悪がおこなわれた後で顔を出すものときまっていまして」。1-6-4-25「それならそれで、検事さんは、その悪を匡正（きょうせい）なさらなければなりませんわ」。1-6-4-26「さらに申しあげますと、わたくしたちは悪を矯正するものではないのでして。1-6-4-27わたくしたちの仕事は、悪の復讐をするだけなのです」。 1-6-4-28「おお！ビルフォールさん」1-6-4-29それは、若い美しい女の人の声だった。1-6-4-30サルビユ伯の息女（そくじょ）であり、サン・メラン嬢（じょう）の友だちだった。1-6-4-31「わたくしたちがマルセイユにいるうちに、なにかすばらしい裁判をなさいませんこと？1-6-4-32わたくし、まだ重罪（じゅうざい）裁判というものを見ていませんの。1-6-4-33ずいぶんおもしろいって話ですわね」。1-6-4-34「なるほどずいぶんおもしろいといえましょうな」と、検事は言った。 1-6-4-35「こしらえものの悲劇とちがって、なにしろほんとの芝居（しばい）ですし、見せかけだけの苦しみとちがって、なにしろ実際の苦しみですから。1-6-4-36そこへ引き出された一人の男は、一日の終りの幕が閉じると、家へ帰り、家族といっしょに晩飯（ばんめし）を食べ、明日のことを考えてしずかにベッドにはいるのとちがって、首斬り役人のいる監獄へ帰って行くというわけですから。1-6-4-37なにか胸を躍らすようなことをと求めている神経質な人たちにとって、これ以上の見ものはありますまい。1-6-4-38御安心ください。1-6-4-39お嬢さま、機会さえあったら、きっと御案内いたしましょう」。 1-6-4-40「あんな怖いことを・・・・しかも、笑っていらっしゃるわ？」と、顔色をかえてルネが言った。

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引用者：2016/6/6　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書