２（５）きな臭い会話

1-2-5-1「どうだった、」と、ダングラールが言った。1-2-5-2「会ったか？」。1-2-5-3「いま別れてきたばかりだ」と、カドルッスが言った。1-2-5-4「『やつ』、船長になれるんだなんて言ってやしなかったか？」。1-2-5-5「まるでもうなっちまったようなことを言ってやがった」。1-2-5-6「しんぼうが肝腎（かんじん）だ」と、ダングラールが言った。1-2-5-7「奴（やっこ：彼の俗語）さん少しあせりすぎてる。1-2-5-8どうもおれにはそういう気がする」。1-2-5-9「へっ！どうやらそのことはモレルさんとちゃんと約束ができちまってるらしいぜ」。1-2-5-10「で、奴さん大乗り気ってわけだな？」。 1-2-5-11「傍若無人（ぼうじゃく・ぶじん）というわけさ。1-2-5-12自分が一（ひと）かど偉くなりでもしたように、何かしてくれようとまで言いやがった。1-2-5-13まるで銀行家にでもなったように、おれに金（かね）を貸してやろうなんてぬかしやがった」。1-2-5-14「で、ことわったか」。1-2-5-15「あたりまえよ。1-2-5-16もっとも借りてやってもよかったんだが。1-2-5-17というのは、『やつ』にはじめてピカピカ光る『おたから（ルイ金貨二万四千円ぐらい）』を握らしてやったのも、かく申すおれなんだから。1-2-5-18だが、これからはダンテスさんも人さまのごやっかいになんぞならないですむわけだ。1-2-5-19いよいよ『やつ』も船長さまになるんだからな」。 1-2-5-20「ふん！」と、ダングラールが言った。1-2-5-21「まだなったわけじゃありゃしねい」。1-2-5-22「ほんとにな、ならないようなら何よりさ」と、カドルッスが言った。1-2-5-23「なりにでもしてみろ、『やつ』と口なぞきけなくなろうぜ」。1-2-5-24「なあに、おれたちさえ一つ踏ん張りゃあ、」とダングラールが言った。1-2-5-25「もとの木阿弥（もくあみ）にしてくれらあ。1-2-5-26も一つ踏ん張りゃ、いまよりもっと落としてみせらあ」。1-2-5-27「なんだと？」。1-2-5-28「なんでもねえ。1-2-5-29こっちの話よ。1-2-5-30で奴さん、相変わらずあの娘に参ってるのか？」。 1-2-5-31「首ったけよ。1-2-5-32いまも出かけて行きやがった。1-2-5-33が、こいつはおれの眼ちがいかもしれねえが、ことによるとなにかおもしろくないことが起こるかもしれない」。1-2-5-34「話せよ」。1-2-5-35「話してそれがなんになるんだ？」。1-2-5-36「思いのほかの重大問題だ。1-2-5-37お前はダンテスがきらいなんだな？」。1-2-5-38「おれは横柄な『やつ』がきらいだ」。1-2-5-39「よし、じゃそのカタロニヤ村の女のことでお前の知ってることをすっかり話せよ」。 1-2-5-40「何もしっかりしたことを知ってるわけじゃねえ。1-2-5-41ただ、どうやらこの目で睨（にら）んだところ、前にもちょっと言ったとおり、今度の船長はビエイユ・ザンフィルムリーの往来（おうらい）あたりでおもしろくないことにぶつかりそうに思われるんだ」。1-2-5-42「いったいなにを睨んだっていうんだ？え？」。1-2-5-43「こうなんだ。1-2-5-44いつもメルセデスが町へやって来るとき、一人のしっかりしたカタロニヤ村の若い衆（わかいしゅう：若者）がついて来るんだ。1-2-5-45黒い目の、色のあかい、濃い栗（くり）いろの髪の毛をして、いかにも元気そうな。1-2-5-46そして女は、その男のことを『あたし』の従兄（いとこ）って呼んでるんだ」。 1-2-5-47「なるほどな！1-2-5-48で、その従兄の『やつ』があの女を張ってるっていうわけかい？」。1-2-5-49「と思うんだ。1-2-5-50二十二になる男が十七になるきれいな娘の前にいるんだ、そうでなくて何をやるんだ？」。1-2-5-51「で、ダンテスはカタロニヤ村へ出かけて行ったか？」。1-2-5-52「一足（ひとあし）先によ」。1-2-5-53「そっちへ行って見ようじゃねえか。1-2-5-54そしてレゼルブ亭（てい）で休むんだ。1-2-5-55マルグ葡萄酒（ぶどうしゅ）をひっかけながら、『たより』を待つとしようじゃねえか」。 1-2-5-56「が、誰が『たより』を持って来るんだ？」。1-2-5-57「おれたちが途中で待ち受けるんだ。1-2-5-58ダンテスの顔さえ見ればなにが起こったか一目でわからあ」。1-2-5-59「行こう」と、カドルッスが言った。1-2-5-60「だが、勘定（かんじょう：支払い）はそっち持ちだろうな」。1-2-5-61「言うだけやぼさ」と、ダングラールが答えた。1-2-5-62こうして二人は急ぎ足でそこを目ざして歩いて行った。1-2-5-63そして着くなり、酒を一本と杯二つを持ってこさせた。 1-2-5-64パンフィール爺（じい）さんは、まだ十分（じゅっぷん）もたたない前にダンテスの通るのを見た、と言った。1-2-5-65ダンテスがカタロニヤ村に行ったことがたしかときまると、二人は葉を出しそめた篠懸（すずかけ：プラタナス）や楓（かえで）の葉陰（はかげ）に腰をおろした。1-2-5-66枝々の間には、楽しげな小鳥の群れが、美しい初春の日を囀（さえず）り歌っていた。

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引用者：2016/5/19　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義