２（４）隣人の話題

1-2-4-1「けっこう、けっこう！1-2-4-2昔の友だちに聞かせたらみんな喜ぶこったろうよ。1-2-4-3それから、あのサン・ニコラの要塞（ようさい）のうしろのほうにも、それを聞いて悪い気持のしない人がおいでだろうよ」。1-2-4-4「メルセデスかい？」と、老人が言った。1-2-4-5「そうなんです、お父さん」と、ダンテスが言った。1-2-4-6「お父さんがゆるしてくだすったら、こうしてお父さんにお目にかかって、元気にしていらっしゃることもわかりましたし、それに何ひとつ不自由していらっしゃらないこともわかりましたし、これからちょっとカタロニヤ村へ行かせていただきたいと思うのですが」。 1-2-4-7「行って来るがいいさ」と、老人が言った。1-2-4-8「わしの息子運のよかったように、お前の女房（にょうぼう）運もいいように祈っているよ」。1-2-4-9「女房だなんて！」と、カドルッスが言った。1-2-4-10「そいつはちょっと早手まわしだな。1-2-4-11まだ女房になってはいないんでしょう！」。1-2-4-12「それはまだです。1-2-4-13でも十中（じゅうちゅう）の九分九厘（くぶくりん）、」と、ダンテスは答えた。1-2-4-14「わたしの家内（かない）になるでしょうよ」。 1-2-4-15「まあまあそんなことはどうでもいいさ」と、カドルッスは言った。1-2-4-16「だが、君は早く帰ってきていいことをしたよ」。1-2-4-17「というのは？」。1-2-4-18「なぜって、メルセデスはなかなかのきりょうよしだ。1-2-4-19きりょうよしっていうやつは、いつも恋いこがれる連中に不自由しないもんだからな。1-2-4-20あの子にだって、十二人ばかりの取巻きがいるのさ」。1-2-4-21「そうですか」と、ダンテスは微笑を浮かべて言った。1-2-4-22だがそのかげには軽い不安が見えていた。 1-2-4-23「そうなのさ」と、カドルッスは言葉をつづけた。1-2-4-24「しかもなかなかりっぱな口まであるんだから。1-2-4-25だが、なにしろ君はこれから船長になるんだ。1-2-4-26ことわられたりするようなこともないだろうさ！」。1-2-4-27「というと、」と、ダンテスは微笑しながら言った。1-2-4-28だが、そのかげの胸の不安をかくせなかった。1-2-4-29「もし船長になれなかったら・・・・」。1-2-4-30「へへん！」と、カドルッスが言った。 1-2-4-31「いや、」と、青年が言った。1-2-4-32「わたしは一般に女の人を、とりわけあのメルセデスを、あなたよりはずっと信用しているんですから。1-2-4-33そして、船長になろうがなるまいが、あの女は、いつもわたしを一心（いっしん）に思っていてくれると信じきっているんです」。1-2-4-34「けっこう、けっこう」と、カドルッスが言った。1-2-4-35「女房をもらおうというときには、信じるということが大切だからな。1-2-4-36が、そんなことはどうでもいいとして、さあぐずぐずしないで、帰ってきたことを知らせてやるがいいさ。1-2-4-37そして、ゆくすえの望みのことを早く聞かせてやるがいいさ」。 1-2-4-38「行ってきます」と、ダンテスが言った。1-2-4-39彼は父に接吻（せっぷん：キスのこと）し、カドルッスにっはちょっと挨拶のしるしをして出て行った。1-2-4-40カドルッスは、なおしばらくそこにいた。1-2-4-41それから彼は、老人に別れを告げると、自分も下へおりて行ったが。、そのまま、スナック町の角（かど）で待っていたダングラールのところへやってきた。

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引用者：2016/5/19　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義