２（２）借金返済事情

1-2-2-1「そうだった、そのとおり。1-2-2-2ところがお前は、お隣のカドルッスさんに少し借りのあったのを忘れていた。1-2-2-3あの人から催促（さいそく）があったんだよ。1-2-2-4そして、わしがお前の代りに払わないと、モレルさんのところへ払ってもらいに行くと言いなさるんだ。1-2-2-5ねえ、わかるだろう。1-2-2-6そんなことがお前の障（さわ）りになってはと思って・・・・」。1-2-2-7「それで？」。1-2-2-8「それでわしが払ったのさ」。1-2-2-9「だって、」と、ダンテスは叫んだ。1-2-2-10「わたしはカドルッスに百四十フランも借りていました！」。1-2-2-11「そうだった」と、老人は口ごもりながら言った。 1-2-2-12「ではお父さんは、わたしの置いていった二百フランの中から、それをお払いになったんですか？」。1-2-2-13老人はそうだとうなずいて見せた。1-2-2-14「ではお父さんは、三月（、みつき）の間、六十（６万円）フランで暮らしておいでになったんだ」と、青年は低くつぶやいた。1-2-2-15「なにしろ、わしは僅（わず）かのもので足りるのだし」と、老人は言った。1-2-2-16「おお、おお、ゆるしてください！」、こういいながら、エドモンは老人の前に身をなげた。1-2-2-17「どうしたのだ？」。1-2-2-18「おお、お話しを聞いて胸が張り裂けそうになったのです」。 1-2-2-19「いいさ！1-2-2-20お前がもどってきてくれたんだから」と、老人はほほえみながら言った。1-2-2-21「もう何もかも忘れてしまった。1-2-2-22みんないいようになったんだ」。1-2-2-23「そうです、」と、青年は言った。1-2-2-24「わたしにはいま、華やかな将来と少しばかりの金ができました。1-2-2-25さあお父さん、取ってください、そしてすぐに何か買いにやってください」。1-2-2-26こう言いながら、テーブルの上にポケットの金（かね）をぶちまけた。1-2-2-27金貨が十二三（じゅう・にさん：ルイ金貨だとすると、およそ２４フランＸ１２＝２８８フラン、２８万円）、五フランが五（いつ）つ六（むっ）つ、そのほかに小銭（こぜに）があった。 1-2-2-28老人の顔は輝きわたった。1-2-2-29「これはいったい誰の金だ？」と、老人は言った。1-2-2-30「わたしのです！・・・・お父さんのです！・・・・わたしたち二人のです！・・・・さあ、取ってください。1-2-2-31食べ物を買ってください。1-2-2-32どうかお仕合せになってください。1-2-2-33あしたになったら、『もっと』持ってきますから」。1-2-2-34「ま、ま、そう言わずに、」と、老人はほほえみながら言った。1-2-2-35「お前のゆるしがあったら、少しずつお前の金を使っていこうよ。1-2-2-36わしが一度にたくさんな物を買ったりすると、人はお前がもどってくるまで、わしに買物ができなかったと思うだろうから」。 1-2-2-37「どうかお好きになすってください。1-2-2-38何をおいても、女中（じょちゅう）を一人お雇いなさい。1-2-2-39このさきお父さんを一人きりにしてはおけませんから。1-2-2-40船倉（せんそう）の小さな箱のなかに、密輸入（みつゆにゅう）のコーヒーとすばらしい煙草（たばこ）があります。1-2-2-41あしたになったらお持ちしましょう。1-2-2-42しーっ！誰か来ました」。1-2-2-43「カドルッスに、お前のもどったのがわかったのだ。1-2-2-44そして、よくもでってきたとお喜びを言いに来たのだろう」。1-2-2-45「やれやれ、ここにもまた、心にもないことをしゃべるやつがいる」と、エドモンはつぶやいた。 1-2-2-46「が、まあよかろう。1-2-2-47あれでもお昔はなにかと家の世話をしてくれたんだ。1-2-2-48迎えてやろう」。1-2-2-49案のじょう、エドモンがちょうどこの言葉を低くつぶやき終ったとき、上り段のドアの『かまち』に、カドルッスの黒い、あご髯（ひげ）をはやした顔があらわれた。1-2-2-50年（とし）のころ二十五か六になろうと思われる男で、手にラシャの布を持っていた。1-2-2-51これは商売が洋服屋なので、それを着物の裏にしようと思っていたところだった。

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引用者：2016/5/19　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義