１８（８）百三十億円の財宝

1-18-8-1「でも、」と、ダンテスはためらいながらたずねた。1-18-8-2「でも、その宝には、この世の中にわたしたちのほかに、もっと正当な所有者がいるのではないでしょうか？」。1-18-8-3「いやいや、安心されるがいい。1-18-8-4一家はすっかり死に絶えたのだ。1-18-8-5そして、このわしは、いちばん最後のスパダ伯爵によって相続人にされた。1-18-8-6伯爵はあの不思議な祈祷書（きとうしょ）をわしに贈ることにより、そのなかに書かれたものまでわしにくれようとされたのだ。1-18-8-7そうだ、安心されるがいい。1-18-8-8その宝を見つけたあかつきは、われわれはなんの遠慮もなく、それをわが物としてかまわないのだ」。 1-18-8-9「でも、その宝というのは、なんでも・・・・」。1-18-8-10「ローマ貨幣で二百万エキュ。1-18-8-11われらの金で、一千三百万（単位がフランだとすると、１フラン＝１０００円と見積もって、2016年の日本円では１３０億円）ほどに当たろう」。1-18-8-12「いけません！」ダンテスは、そのあまりに莫大なのに恐れをなした。1-18-8-13「いけません、だと！1-18-8-14それはまたなぜだ？」と、老人は言った。 13,000,000（フラン）×1,000（円）=13,000,000,000（円）=130億円だが、 単位がエキュなら３倍、ルイなら２４倍になる。ルイかもしれない。 ルイだとすると、３１２０億円、ちょとしたものだ。 1-18-8-15「スパダ一家は、十五世紀においての勢力のあった旧家（きゅうか）の一つだ。1-18-8-16それに、当時にあっては、投機もなければ工業もなかった。1-18-8-17そこで、こうした黄金や宝石類が貯えられていたのに不思議はない。1-18-8-18いまでもまだ、ゆずられた百万がほどの金剛石や宝石類を持ちながら、世襲（せしゅう）財産としてそれに手をつけることができないままに、餓死しかけているローマの旧家がいくつもあるのだ」。 1-18-8-19ダンテスは、夢に夢みる心地（ここち）だった。1-18-8-20彼は、信じられない気持とうれしさの気持との間を彷徨（ほうこう）していた。1-18-8-21「わしが長いことこの秘密を打ち明けずにいたというのも、」と、ファリアは言葉をつづけた。1-18-8-22「それはまず第一にあなたを試してみたかったからだ。1-18-8-23第二には、あなたを驚かせてやりたかったからだ。1-18-8-24あのカタレプシーの発作（ほっさ）の前に逃げ出すことができていたら、わしはあなたをモンテ・クリスト島へ連れて行ったことだろう。1-18-8-25いまとなっては、」と、老人は溜息をつきながら言葉をつづけた。 1-18-8-26「わしは、あなたにつれて行ってもらわなければならない。1-18-8-27どうだ、ダンテス君、わしに礼を言わぬかな？」。1-18-8-28「その宝はあなたのものです」と、ダンテスは言った。1-18-8-29「それはあなただけのものなのです。1-18-8-30わたしにはなんの権利もありません。1-18-8-31わたしは、あなたの親類でもないのですから」。 1-18-8-32「あなたはわしの息子なのだ！」と老人は叫んだ。1-18-8-33「あなたは、わしの囚われていたあいだの息子なのだ。1-18-8-34わしの身分は、わしを独身のままにさせた。1-18-8-35主はあなたをわしに遣わされて、父親になれない男、自由になれない囚人、この二つを同時に慰めてやろうとなさったのだ」。1-18-8-36ファリア司祭は、こう言いながら、いま自分に残っている片方の腕を青年のほうへ差し出した。1-18-8-37青年は、老人の首に飛びつくなり、涙にくれた。

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引用者：2016/5/21　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書