１８（７）現われた遺言

1-18-7-1ファリアは、燃えるような眼差しでダンテスを見つめていた。1-18-7-2「さ、」と、彼は、ダンテスが最後の行まできたのを見ながら言った。1-18-7-3「両方の断片を一つにしてみるがいい。1-18-7-4そして一人で考えてみるのだ」。1-18-7-5ダンテスはそのとおりにした。1-18-7-6二つの断片をよせ合わせると次ぎのような全文があらわれた。 1-18-7-7　『１４９８年４月２５日、法皇アレクサンドル六世猊下（げいか） 1-18-7-8　より午餐の御招待に接したるが、或いは金銭をもって予 1-18-7-9　に職を売りたまいしことをあきたらず思いたもうのあまり、予 1-18-7-10　の財産を押収し毒をもってたおれたるクラパラ並にベンテ 1-18-7-11　ボリオ両枢機員の轍をふましめたまわん御心なるやも計られず 1-18-7-12　ここにおいてわが包括相続者たる予が甥グイド・スパダ 1-18-7-13　にたいし、次の次第を書き遺さんとするものなり。 1-18-7-14　すなわち彼が予とともに訪れてよく知れる地点すなわち 1-18-7-15　モンテ・クリスト島の洞窟中に予は自己の所有に属する 1-18-7-16　あらゆる地金、金貨、宝石類、金剛石、宝玉の類を埋め 1-18-7-17　たり。この宝の存在を知るものは予のほかになく、その価格はおよそローマ２００ 1-18-7-18　万エキュにのぼるべく、右を見出すために 1-18-7-19　は東の小湾より真直に数えて第２０番目にあたる岩を上ぐべく、 1-18-7-20　洞窟中には２箇の入口あり。宝は第２の洞のもっとも深き 1-18-7-21　隅にあり。彼をもって予の唯一なる相続人として、宝はすべて彼に 1-18-7-22　遺贈し、彼の全所有たらしむるものなり。 1-18-7-23　１４９８年４月２５日 1-18-7-24　セザール＋スパダ』 1-18-7-25「どうだ！おわかりかな？」とファリアが言った。1-18-7-26「これがあの枢機員スパダの声明（せいめい：意見や立場を公に発表すること）なのですか？1-18-7-27これが、みんなであんなに長い間（あいだ）探していた遺言（ゆいごん）なのですか？」。1-18-7-28ダンテスはまだ半信半疑のままでこうたずねた。1-18-7-29「そうなのだ。そのとおりだ」。1-18-7-30「だれが、これを元どおりの形にこしらえあげたのです？」。1-18-7-31「わしだ。1-18-7-32残っていた断片をつかい、紙の長さから行の長さを割り出し、意味のわかているところからわからないところを考えたのだ。1-18-7-33ちょうど、上から射（さ）す僅（わず）かの光を頼りに、穴のなかをのぞくようにだ」。 1-18-7-34「そして、この確信が得られたとき、いったいどうしようとお思いでした？」。1-18-7-35「わしは、すぐに出かけて行こうと思うた。1-18-7-36そして、イタリー王国統一についての大著の冒頭の部分をたずさえて、時をうつさず出発した。1-18-7-37ところがだ、当時のイタリー警察は、その後ナポレオンが、子供を持つようになってから考えたのと反対に、イタリー各州を分裂させることを考えていて、わしに目をつけていたというわけだった。1-18-7-38警察は、わしの出発のあわただしさを見て、わしの真意などわかりもせずに、ただ疑いの目をみはった。1-18-7-39そして、わしは、ピオンビノへ向かって出帆（しゅっぱん）しようとするところをつかまえられた。 1-18-7-40さて、ファリアは、ほとんど父親のような目でダンテスを見ながら言葉を続けた。1-18-7-41「さて、あなたはいま、わしの知っているだけのことを知っておいでだ。1-18-7-42万一、いっしょに逃げられたら、宝の半分はあなたにあげる。1-18-7-43もしわしがここで死に、あなただけが逃げられたら、宝はすっかりあなたのものだ」。

次へ

引用者：2016/5/12　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書