１８（６）炎に浮かぶ文字

1-18-6-1ところがだ、わしの指の下に、まるで魔法のように火が燃え上がってくるにつれ、白い紙から黄ばんだ文字が浮き出して、紙の上にあらわれだしてきたではないか。1-18-6-2わしはなんだか怖（こわ）くなった。1-18-6-3手の中に紙をつかんで火を吹き消すと、蝋燭には炉からじかに火をうつし、なんとも言えない感激で、その揉（も）みくしゃにした紙を開いた。1-18-6-4するとそこには、不思議な隠見墨（いんけん・すみ：あぶり出しの汁）で書かれ、強い熱にあって初めて姿をあらわす文字の書かれているのが目にはいった。 1-18-6-5およそ三分の一以上は、すでに焔（ほのお）で焼けていた。1-18-6-6それが今朝（けさ）、あなたの読まれたあの紙だ。1-18-6-7もう一度読み直して見るがいい。1-18-6-8も一度あなたが読んでみてから、わしが、そのとぎれた文字や意味の足りないところを補ってみせよう」。1-18-6-9こう言うとファリアは言葉を切って、ダンテスの方へ紙片を差し出した。1-18-6-10ダンテスは、まるで「さび」のような褐色（かっしょく）のインキで書かれた文字を、むさぼるように読み直した。 1-18-6-11　　　１４９８年４月２５日、法 1-18-6-12　より午餐の御招待に接したる 1-18-6-13　に職を売りたまいしことをあきたらず 1-18-6-14　の財産を押収し毒をもってたおれ 1-18-6-15　ボリオ両枢機員の轍（てつ）をふましめたま 1-18-6-16　れず、ここにおいてわが包括（ほうかつ） 1-18-6-17　ダにたいし、次の次第（しだい）を書 1-18-6-18　すなわち彼が予（よ：私のこと）とともに訪れてよ 1-18-6-19　モンテ・クリスト島の洞 1-18-6-20　あらゆる地金（じがね）、金貨、宝石類、金剛 1-18-6-21　り。この宝の存在を知るものは予のほ 1-18-6-22　およそローマ貨幣２００ 1-18-6-23　は東の小湾より真直（まっすぐ）に数 1-18-6-24　べく、洞窟中（どうくつちゅう）には２箇の入口あり、宝 1-18-6-25　隅にあり。彼をもって予の唯一（ゆいいつ）なる相 1-18-6-26　彼に遺贈（いぞう）し、彼の全所有（しょゆう）たらし 1-18-6-27　１４９８年４月２５日 1-18-6-28　セ 1-18-6-29「さ、」と司祭は言葉をつづけた。1-18-6-30「今度はこっちの紙を読んでみるのだ」。1-18-6-31そう言いながら、やはり何行かの断片（だんぺん）の記された第二の紙片をダンテスに見せた。1-18-6-32受けとったダンテスは、読んでみた。 1-18-6-33　皇アレクサンドル六世猊下（げいか） 1-18-6-34　が、或いは金銭をもって予 1-18-6-35　思いたもうあまり、予 1-18-6-36　たるクラパラ並（ならび）にベンテ 1-18-6-37　わん御心（おこころ）やるやも計ら 1-18-6-38　相続者たる予が甥（おい）グイド・スパ 1-18-6-39　き遺さんとするものなり。 1-18-6-40　く知れる地点すなわち 1-18-6-41　窟中に予は自己（じこ）の所有に属する 1-18-6-42　石、宝玉のお類を埋めた 1-18-6-43　かになく、その価格は 1-18-6-44　万エキュにのぼるべく、右を見出すために 1-18-6-45　えて第二十番目にあたる岩を上ぐ 1-18-6-46　は第二の洞のもっとも深き 1-18-6-47　続人として、宝はすべて 1-18-6-48　むるものなり。 1-18-6-49　ザール＋スパダ ---猊下（げいか）の意味 「猊」は獅子の意で仏をたとえ、「猊下」は猊座の下の意。（１）各宗派の管長など高僧の敬称。

次へ

引用者：2016/5/12　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書