１６（８）ダンテスの脱走案

1-16-8-1「あなたがここまでくるのにお掘りだった穴は、外回りの廊下と同じ方向に延びていっているのでしょう？」。1-16-8-2「そうだ」。1-16-8-3「そして、その間は僅（わず）か十五尺（５ｍ）くらいなものでしょう？」。1-16-8-4「せいぜい」。1-16-8-5「そこです！1-16-8-6穴の真中（まんなか）あたりから、ちょうど十字架の腕のような形に横穴を一つ掘ります。1-16-8-7今度は、もっとしっかり計算していただきます。1-16-8-8わたしたちは外回りの廊下に出る。1-16-8-9そして、番兵を殺すのです。 1-16-8-10そして、脱走するのです。1-16-8-11この計画が成功するには勇気さえあればじゅうぶんです。1-16-8-12あなたはそれをお持ちです。1-16-8-13あとは、力の問題です。1-16-8-14そして、このわたしにはそれがあります。1-16-8-15しんぼうづよさの点については、いまさら言うこともありますまい。1-16-8-16あなたは実際にそれをお見せになりましたから。1-16-8-17そして、このわたしにもお見せできるでしょう」。 1-16-8-18「ちょっと」と、司祭は言った。1-16-8-19「あなたはわしの勇気というものがどんなものか、またわしが自分の力をどういうふうにつかおうと思っているか、それがおわかりでないようだ、しんぼうづよさにかけては、朝になれば夜の仕事のつづきにかかり、夜になれば日のうちの仕事のつづきをやるといったように、自分でもずいぶんしんぼうづよかったと思っている。1-16-8-20だが、ここのところをよく聞きわけてもらいたい。1-16-8-21わしは、むじつにして罰せられた人間に自由を与えること、すなわち主にお尽し申すことだと思っていた。1-16-8-22わしの考えはこれだった」。 1-16-8-23「ではどうなのです！」と、ダンテスがたずねた。1-16-8-24「事情が変わったとでもおっしゃいますか。1-16-8-25わたしにお会いになってから、御自身、罪ある者のようにお考えになりだしたというわけですか？」。1-16-8-26「ちがう。1-16-8-27ただ、わしは罪を犯したくない。1-16-8-28今日（こんにち）までのところ、わしの相手はただ物であると思っていた。1-16-8-29だがいま、あなたは人間を相手にしろと言われた。1-16-8-30わしには、壁を貫（つらぬ）き、階段をこぼつことだけはできた。1-16-8-31だが、人（ひと）の胸を貫き、人の命（いのち）を断（た）つことはできないのだ」。

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引用者：2016/5/27　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書