１６（６）ごぞんじかな？

1-16-6-1「も一度やると言われるが、あなたは、わしがやってきたことを御存じないな？1-16-6-2道具をこしらえるに、四年かかったことを御存じかな？1-16-6-3二年かかって花崗岩（かこうがん）のように堅い土の上を掻（か）いたり掘ったりしたことを御存じかな？1-16-6-4とても動かすことのできないと思われていた石を取りのけなければならなくなって、何日もその大仕事にかかりきりになっていたとき、やっと晩（ばん）になって、石に変わらぬほど固くなった古セメントを僅（わず）か一寸（いっすん：３Cm）四方（しほう）もけずり取ることができたときの喜びを御存じかな？ 1-16-6-5そして、その土（つち）全部、その石全部をかくすために、階段の天井（てんじょう）を掘り抜いて、そのなかに、掘り出したものを埋めて行ったことを御存じかな？1-16-6-6そうこうするうち、その室も一（いっ）ぱいになって、もう一握（ひとにぎ）りの砂さえどこへ入れたらいいかわからないようになってしまった。1-16-6-7御存じかな、わしは、自分の仕事がその目的に達しかけたと思っていた。1-16-6-8そして、わしの力も、この仕事を成しとげるだけがやっとだと感じていた。 1-16-6-9ところがどうだ、主は突然、ただその目的を遠くへずらしたもうたばかりでなく、それを、どこかわからぬところへ、もっていっておしまいだった！1-16-6-10ああ！わしははっきり言おう、くり返して言おう。1-16-6-11わしはこのさき、自由になるためになにもしまいと思っている。1-16-6-12主は、わしの自由が永遠に失われることをお望みになっておいでなのだ」。 1-16-6-13ダンテスは首を垂れた。1-16-6-14仲間のできたといううれしさのあまり、脱獄できずにもだえているこの囚人（しゅうじん）にたいして、じゅうぶん同情（どうじょう）できないでいるのを見て取られたくなかったから。1-16-6-15ファリア司祭は、エドモンのベッドへ行って腰をおろした。1-16-6-16ダンテスは立ったままだった。1-16-6-17青年（せいねん）は脱獄（だつごく）ということなど考えてもみなかった。1-16-6-18世のなかには、一目（ひとめ）見ただけでまったく不可能と思われるようなこと、それをやってみようなどという考えさえ起こらず、まったく本能的にそれを回避（かいひ）してしまうようなことがあるものだ。 1-16-6-19地面（じめん）の下を五十尺（１５ｍ）も掘り、その仕事に三ヵ年の日数（にっすう）をかけ、それがうまくいっても、達するところは、海上（かいじょう）に切りたっている断崖（だんがい）。1-16-6-20たとい哨兵（しょうへい）の弾（たま）にやられないにしても、五十尺（１５ｍ）、六十尺（１８ｍ）、おそらくは百尺（３０ｍ）もあろうというところから飛びおりたら、岩で頭を打ち割ってしまわなければならない。 1-16-6-21そうした危険のすべてをのがれられたにしても、なお海上一里（いちり：４Ｋｍ）を泳（およ）がなければならない。1-16-6-22もうこれだけで、あきらめるにはじゅうぶんだった。1-16-6-23そして、ダンテスが、そうしたあきらめの気持を、危（あや）うく死にまで押し進めようとしていたことは前にも語ったとおりだった。

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引用者：2016/5/26　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書