１６（４）老人の名はファリア

1-16-4-1「わしはファリア司祭というものだ」と、老人は言った。1-16-4-2「１８１１年から、ごらんのようにシャトー・ディフに囚われの身になっているが、その三年前から、フェネストレルの城塞に幽閉されていた。1-16-4-3西暦１８１１年にピエモン（ピエモンテ）からフランスにうつされた。1-16-4-4そのころ、わしは、いつも皇帝の思いどおりになっていた運命が、ナポレオンに皇子（おうじ）を与え、その揺籃（ようらん：ゆりかご）のなかの皇子がローマ王になられたということを知った。1-16-4-5さっきあなたの言われたことは、わしにとって思いもよらぬことだった。1-16-4-6してみると、それから四年の後にナポレオンが没落されたというわけだな。1-16-4-7いま、誰がフランスを治めているのかな？1-16-4-8ナポレオン二世か？」。 1-16-4-9「いいえ、ルイ十八世です」。1-16-4-10「ルイ十八世、ルイ十七世の弟さんだな。1-16-4-11天の御旨（みむね）は、玄妙（げんみょう：道理や技芸が奥深くすぐれていること）神秘（しんぴ）をきわめている。1-16-4-12前に引き立てたものをまた下におろし、前に引きおろしたものをまた引き立てる。1-16-4-13神の御旨は、いったい何に存（ぞん）しているのだろう？」。1-16-4-14ダンテスは、こうして一時、自分自身の運命も忘れ、ただ世界のことのみを思っているこの人の姿をじっと見まもっていた。 1-16-4-15「そう、そう」と、老人はつづけた。1-16-4-16「それはちょうどイギリスの場合と同じことだ。1-16-4-17チャーレス一世の後にはクロムエルが出た。1-16-4-18クロムエルの後にはチャーレス二世が出た。1-16-4-19そしておそらく、ジェームズ二世の後には、女婿（おんなむこ）とか、親族とか、オレンヂ公とかが出てくることだろう。1-16-4-20と、たちまち人民（じんみん）にたいして新しい免許（めんきょ）が出される。1-16-4-21やがて憲法だ、やがて自由だ！1-16-4-22あなたもそれを御覧になる日がおありだろう」と、ダンテスのほうを振り向いて、さも予言者らしい、深い、輝いた眼（まな）ざしで言った。1-16-4-23「あなたは、まだそれを見られる年（とし）ごろだ、それがごらんになれるだろう」。 1-16-4-24「もしここから出られる日がありましたら」。1-16-4-25「そのとおり」と、ファリア司祭が言った。1-16-4-26「わしたちはまさに囚人だったな。1-16-4-27わしはときどきそれを忘れることがある。1-16-4-28わしの眼は、自分を閉じこめている壁をとおして見えるので、まるでわが身が自由ででもあるように思うのだ」。1-16-4-29「だが、どうしてこんなところにおはいりでした？」。

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引用者：2016/5/24　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書