１６（２） １６（２）
| 1-16-2-1「石の取りのけかたが乱暴だったな」と、彼は首をふってみせながら言った。1-16-2-2「してみると、道具がなかったというわけかな？」。1-16-2-3「あなたは、」と、ダンテスは驚いてたずねた。1-16-2-4「あなたはなにかお持ちでしたか？」。1-16-2-5「わしは幾つかこしらえた。1-16-2-6やすりだけないが、必要なものはなんでもある。1-16-2-7のみ、やっとこ、てこ」。 1-16-2-8「おお！気ながく工夫（くふう）しておつくりだったそうしたものを、わたしに見せてはくださいませんか」と、ダンテスが言った。1-16-2-9「ほれ、ここにまずノミがある」そう言いながら、彼はブナの木片（もくへん）を柄（え））にすげた、強い鋭い刃を出してみせた。1-16-2-10「なんでおこしらえになりました？」と、ダンテスが言った。1-16-2-11「ベッドのツメ金（がね）でつくったのだ。1-16-2-12この道具でここまでの道を掘り上げたのだ。1-16-2-13およそ五十尺（しゃく：１５ｍ）にもなろうかな」。 （1尺＝０．３０３ｍ） 1-16-2-14「１５メートル！」と、ダンテスは、恐怖に似た叫びをあげた。1-16-2-15「声を低く、声を低く。戸口（とぐち）で立ち聞きしていることがよくあるから」。1-16-2-16「でも、わたし一人だけだということを知っています」。1-16-2-17「そんなことなど当（あ）てにならん」。1-16-2-18「ここへいらっしゃるまで、五十尺もお掘りになったのですか？」。1-16-2-19「そうなのだ。それが、だいたい、この室（しつ）とわしの室との距離なのだ。1-16-2-20ただ、プロポーション（割合：比率）をはかるための幾何学（きかがく）の道具がなかったため、曲線（きょくせん）の計算をまちがえたのだ。 1-16-2-21四十尺（１２ｍ）の楕円（だえん）の代わりに、五十尺（１５ｍ）にしてしまった。1-16-2-22わしは、まえにも言ったように、外の壁まで出て行って、その壁を貫（つらぬ）き、海に飛びこもうと思っていた。1-16-2-23わしは、あなたの室が向（む）かっている廊下（ろうか）の下を抜ける代わりに、それに沿ってやっていたのだ。1-16-2-24こうなる上は、わしの仕事も万事（ばんじ）休（きゅう）すだ。1-16-2-25なぜかというと、そこの廊下は、番兵（ばんぺい）でいっぱいの中庭へ向かっているのだから」。 1-16-2-26「そのとおり」と、ダンテスが言った。1-16-2-27「ですが、この廊下は、わたしのただ一面（いちめん）だけに沿（そ）っています。1-16-2-28そして、室には四（よ）っつの面がありますが」。1-16-2-29「そう、それはもちろん。1-16-2-30だが、ひとつ、岩を壁にしているやつがある。1-16-2-31その岩をくり抜くということだったら、道具の揃（そろ）った坑夫（こうふ）が、十年も働かなければならないのだ。1-16-2-32も一（ひと）つのほうは、典獄（てんごく：刑務所長の旧称）の室の土台（どだい）と背中（せなか）合わせになっているはずだ。 1-16-2-33たぶん穴倉（あなぐら）へ出るだろう。1-16-2-34もちろん鍵（かぎ）もかかっていようし、そのまま捉（とら）まることになろう。1-16-2-35一（いっ）ぽうの壁は、と。1-16-2-36さて、あれはどちらへ向いていたのかな？」。1-16-2-37その壁には、小さな銃眼（じゅうがん）が開いていて、そこから日が射しこむようになっていた。1-16-2-38銃眼は、外へ行くにしたがってだんだん狭くなり、子供であっても通れそうになく、そのうえさらに三列（さんれつ）の鉄格子（てつごうし）がついていて、いかに疑いぶかい獄丁（ごくちょう：看守）でも、そこから脱走するなどとは考えてさえもみられなかった。 |
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引用者：2016/5/24 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
ささくら修道会・必読書