１６（１１） １６（１１）
| 1-16-11-1「では、言葉もいろいろ御存じですか？」。1-16-11-2「わしには現代の言葉が五（いつ）つ話せる。-16-11-3ドイツ語、フランス語、イタリー語、英語、スペイン語、この五つだ。1-16-11-4それに、古代（こだい）ギリシャ語の助けを借りて、現代ギリシャ語もわかる。1-16-11-5話はうまくできないが。それもいま勉強中だ」。1-16-11-6「勉強中？」と、ダンテスが言った。 1-16-11-7「そうなのだ。1-16-11-8わしは、自分の知っている字で単語集を作った。1-16-11-9それを按排（あんばい：ほどよい配置）し、組み合わせ、いろいろいじくりまわして、どうやら自分の思うことを言い現わすことができるようにした。1-16-11-10わしは、だいたい千語（１０００ご）ぐらい知っている。1-16-11-11なるほど辞書には一万語ほどもあるだろうが、わしになくてならないものは、せいぜい千語ぐらいだ。1-16-11-12達者（たっしゃ）にとはいくまいが、りっぱに自分のいうことだけは通じさせられることだろう。1-16-11-13わしにはそれだけでじゅうぶんなのだ」。 1-16-11-14ますます驚きを新たにしたダンテスには、このふしぎな老人の才能が超自然的なもののように思われだしてきた。1-16-11-15そして、なんとかして、この人の困っている点を見つけ出してやりたいとさえ思った。そして、こう言った。1-16-11-16「でも、ペンがなくなって、どうしてそんな大きな本がお書けでした？」。1-16-11-17「すばらしいペンをつくったのさ。1-16-11-18その材料がわかったら、誰も彼も普通のペンより珍重（ちんちょう）するにちがいない。 1-16-11-19小斎日（肉を食べない日）にときどきついてくるあの大きな鱈（たら）の頭の軟骨、わしはあれで作ったのだ。1-16-11-20だから、水曜や金曜や土曜の来るのを、いつも楽しみにして待っている。1-16-11-21ペンの貯（たくわ）えがふえるから。1-16-11-22それに、正直のところ、歴史的な研究は、わしのいちばんたのしい仕事だ。1-16-11-23過去にさかのぼることによって、現在を忘れることができる。1-16-11-24自由に、そして、束縛（そくばく）されることなしに歴史のなかを歩いていると、自分の囚人であることなんか忘れてしまえる」。 1-16-11-25「でも、インキは？」と、ダンテスが言った。1-16-11-26「インキはなんでお作りでした？」。1-16-11-27「わしの牢は、むかし暖炉がきられていた。と、ファリアが言った。1-16-11-28「それは、わしの来るしばらく前にふさがれてしまっていた。1-16-11-29ところが、長年（ながねん）火を焚（た）いていたので、すっかりススがたまっていた。1-16-11-30そのすすを、日曜ごとにもらう葡萄酒のなかに溶（と）かすのだ。1-16-11-31すると、りっぱなインキができる。1-16-11-32特別な、注意を引かなければならない箇所には、指を突いて血を出して書く」。 1-16-11-33「それをいつ見せていただけます？」と、ダンテスがたずねた。1-16-11-34「いつでもよろしい」と、ファリアが答えた。1-16-11-35「ではすぐに！」と、青年が叫んだ。1-16-11-36「わしについてくるがいい」と、司祭が言った。1-16-11-37老人は、また地下の穴にはいって行って、そこに姿を消してしまった。1-16-11-38ダンテスは後につづいた。 |
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引用者：2016/5/29 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
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