１６（１）初顔合わせ

1-16-1-1ダンテスは、長いこと待ちに待った新しい友人を腕に抱き、僅（わず）かに射（さ）しこむ日かげのなかにその姿をすっかり照らして見ようと思いながら窓のほうへ引っぱって行った。1-16-1-2それは小柄な、髪は、年齢のためというよりむしろ苦労のために白くなり、眼は、ごま塩がかった厚い眉毛の下に、人を射すように鋭く、まだ黒いままの鬚（ひげ）を、胸まで垂らしている男だった。 1-16-1-3深い皺（しわ）の刻（きざ）まれている痩（や）せた顔立ち、特色（とくしょく）のある強い顔の線から推（お）して、肉体的の力よりむしろ精神力を用いるに馴（な）れた人といった感じだった。1-16-1-4額（ひたい）は汗（あせ）でびっしょりだった。1-16-1-5着物は、はじめどんな形をしていたか、ちょっと身わけかねるほどぼろぼろだった。1-16-1-6少なくも六十五にはなってるらしかった。 1-16-1-7それでいて、その動作（どうさ）に一種（いっしゅ）の元気さが見られることから、この長い牢獄生活のため、じっさいよりもふけているらしく考えられた。1-16-1-8男は、感きわまって地にひざまずいた青年（せいねん）を、さもうれしそうにながめていた。1-16-1-9いままで凍りついていた心は、燃えさかるダンテスの心と出会って、しばらく暖まり、熔（と）けはじめでもしたようだった。1-16-1-10自由が得られるものと思っていたのに、第二の牢に出てしまったため、かなり絶望していたにはちがいないが、青年の親しみのあるようすを見て、熱意といったようなものを見せて感謝した。 1-16-1-11「まず、」と、彼は言った。1-16-1-12「あなたのところへくる獄丁の目から、わしの通ってきた道をかくす方法を考えよう。1-16-1-13これから二人が平穏（へいおん）にしていられるかどうか、それは、いままでのことが彼らに知られずにいるかどうかにかかっているのだから」。1-16-1-14こう言いながら、彼は穴のほうへ身をかがめた。1-16-1-15そして、石を取るなり、相当（そうとう）重かったにもかからわず、やすやすと持ち上げて穴のなかへはめこんだ。

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引用者：2016/5/24　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書