１２（５） １２（５）
| 1-12-5-1或（ある）いはむしろなにも言わずにいたがいい。1-12-5-2お前の旅行のことを伏せておくのだ。1-12-5-3パリへきたこと、そこでなにをしたかというようなことを吹聴（ふいちょう）したりしないことだ。1-12-5-4そして自分の任務（にんむ）に帰るがいい。1-12-5-5急いでやってきたとしたら、今度（こんど）は大急ぎで帰って行くのだ。1-12-5-6マルセイユには、夜になってからはいるがいい。1-12-5-7家へも裏口（うらぐち）からはいるのだ。1-12-5-8そして、できるだけおとなしく、つつましやかに、鳴（な）りをひそめていること。 1-12-5-9とりわけ手出しは禁物（きんもつ）だ。1-12-5-10なぜかといえば、誓っていうが、今度こそは峻烈（しゅんれつ）に、仮借（かしゃく）なしにやっつけることになっているから。1-12-5-11さあ行くかいい。1-12-5-12そしてこの父の命令がわかってくれたら、というより、この一人の友人の忠言をすなおに聞き入れてくれるようなら、お前のいまの位置はそのままにしておいてやる。1-12-5-13そうしておくと、」とノワルティエは微笑（びしょう）しながらつけ加えた。 1-12-5-14「今度また政界の跳（と）び板が変って、お前が上、わしが下になったとき、も一度お前に助けてもらえることになるから。1-12-5-15では、今度やってきたときは家へ泊（とま）れよ」。1-12-5-16こう言ったノワルティエは、こみ入（い）った話のあいだにも決して失うことのなかった平静（へいせい）なようすで出て行った。 1-12-5-17ビルフォールは、色（いろ）青（あお）ざめ、心（こころ）みだれて、窓（まど）側（がわ）まで走りよって窓掛けを細目に開いた。1-12-5-18そしてボルヌ（家の前に、馬車荷車などの直接突き当たらないために据えてある石の角材）のかげ、町角のあたりに待（ま）ち伏（ふ）せして、おそらく黒い頬髯、青いフロック、鍔広の帽子を引捕（ひっとら）えようとしているらしい、人相（にんそう）のわるいニ三（にさん）人（にん）の男のあいだを、落ちついた、泰然（たいぜん）としたようすで歩き去（さ）って行く父の姿（すがた）を見送った。 1-12-5-19ビルフォールは、父がビュシイの四辻（よつつじ）に姿を消してしまうまで、そのまま、息をはずませて立っていた。1-12-5-20それから彼は、父の残して行った品々の上におどりかかった。1-12-5-21そして、黒いネクタイと青いフロックを行李（こうり：昔の衣装ケース、いまどきはスーツケース）の底に押しこみ、帽子は丸めて箪笥（たんす）の底に突っこみ、籐のステッキは三（みっ）つに折って火のなかに投げ込み、旅行帽子をかぶると、召使（めしつかい：いまどきは秘書）を呼び、なにか問いたげなようすをしているのを目で封（ふう）じながら、ホテルの勘定（かんじょう）をすまし、そして、すっかり用意を調（ととの）えて待っていた馬車に飛び乗った。 1-12-5-22そして、途中（とちゅう）、リオンではボナパルトがグルノーブルにはいったことを聞き、行く先々（さきざき）の路（みち）筋（すじ）に不安な空気のみなぎっているなかを通り過ぎて、大望（たいもう）と最初（さいしょ）の成功とに胸をわくわくさせながら、マルセイユへたどりついた。 |
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引用者：2016/6/22 （笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」 初代代表者 笹倉正義
ささくら修道会・必読書