１１（６）叙勲の栄誉

1-11-6-1ビルフォールは、はっと目がくらんだ。1-11-6-2「いや、陛下、わたくしはトウルン町のマドリッド・ホテルに泊まります」。1-11-6-3「でも、お父さんにはお会いだったかね？」。1-11-6-4「陛下、わたくしはまっ先にブラカス侯爵のところに上がりました」。1-11-6-5「が、お父さんには会うだろう？」。1-11-6-6「会わないつもりでございます」。 1-11-6-7「ああ、それがいいな」。ルイ十八世は、たびたびくり返した質問が、心あってなされたことを思わせるように微笑しながら言った。1-11-6-8「君とノワルティエ君と、仲の悪かったことをすっかり忘れていた。1-11-6-9これも王家のために払われた犠牲だ。1-11-6-10わたしが賠償（ばいしょう）してあげなければなるまい」。1-11-6-11「陛下、陛下の御厚意は、もうそれだけで身にあまる御褒美（ごほうび）でございます。1-11-6-12それ以上、お願いいたすことはございません」。 1-11-6-13「よしよし、君のことは忘れまい。1-11-6-14安心したまえ。1-11-6-15が、ともかく、（王は、平素その青い上衣（じょうい）のサン・ルイ勲章（くんしょう）のそば、ノートル・ダム・デュ・モン・カルメン・エ・ド・サン・ラザール勲章の上のあたりにつけていたレジオン・ドヌール勲章をはずしながら）ともかく、」と王は言った。1-11-6-16「これを取っておきたまえ」。 1-11-6-17「陛下、」と、ビルフォールは言った。1-11-6-18「おまちがえでございます。1-11-6-19これはオフィシェ勲章でございます」。1-11-6-20「そうだった」と、ルイ十八世は言った。1-11-6-21「だが、まあそれはそれとして取っておきたまえ。1-11-6-22べつのを持ってこさせるひまがないから。1-11-6-23ブラカス君、ビルフォール君に勲記（叙勲者に勲章とともに与えられる証書）を授けることをお頼みするよ」。1-11-6-24ビルフォールの眼は、この誇らしい喜びの涙にじっとりうるおっていた。1-11-6-25彼は勲章を手に取ると、それに接吻（せっぷん：キス）した。 1-11-6-26「で」と、彼はたずねた。1-11-6-27「わたくしは、これから何をいたしたらよろしゅうございます？」。1-11-6-28「じゅうぶん休息（きゅうそく）を取りたまえ。1-11-6-29パリで働いてもらうことはできないでも、マルセイユにいてじゅうぶん役にたってもらえることを忘れないでいてくれたまえ」。1-11-6-30「陛下、」と、ビルフォールは頭をさげながら言った。1-11-6-31「一時間いたしましたら、パリを出発（しゅっぱつ）いたします」。 1-11-6-32「いきたまえ」と、王は言った。1-11-6-33「わたしが忘れるようなことがあっても（王というものは、とかく物忘れなものだからな）、遠慮なしに思い出させてくれたまえ・・・・男爵、陸軍大臣に来るように言ってくれたまえ。1-11-6-34ブラカス君（くん）、君（きみ）はここにいてもらおう」。 1-11-6-35「おお！」と、総監は、王宮を出ながらビルフォールに言った。1-11-6-36「あなたはいい門をおはいりだったな。1-11-6-37これであなたの幸運もきまったな」。1-11-6-38ビルフォールは、もう命数（めいすう）の尽きている総監に挨拶したあとで、さて宿（やど）へ帰るための馬車を目で探しながら、《いったいこれも長つづきするだろうか？》とつぶやいた。

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引用者：2016/6/12　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書