１１（２）彼はパリを目指して

1-11-2-1「王位（おうい）を奪ったあの男がフランスに来たのだと！1-11-2-2あの男は、監視されてはいなかったのかな？1-11-2-3あの男と連絡をとってでもいたというのか？」。1-11-2-4「おお陛下、」とブラスカ侯爵（こうしゃく）は叫んだ。1-11-2-5「ダンドレさんにかぎって、裏切るはずなどございません。1-11-2-6陛下、わたくしたちは目が見えなかったのでございます。1-11-2-7そして総監も、みんなと同様、目がみえなかっただけなのでございます」。 1-11-2-8「しかし・・・・」と、ビルフォールは言った。1-11-2-9だが、すぐに口をつぐんだ。1-11-2-10「おお陛下、おゆるしくださいまし」と、彼は頭を下げて言った。1-11-2-11「思いつめたあまり、取り乱しました。1-11-2-12陛下、おゆるしくださいまし」。1-11-2-13「言いたまえ、大胆にはっきり言いたまえ」と、王は言った。1-11-2-14「こうした不幸を前もって知らせてくれたのは君だけだ。1-11-2-15その善後策（ぜんご・さく）を求めるためにも、君の知慧（ちえ）を貸してもらいたい」。 1-11-2-16「陛下、」と、ビルフォールは言った。1-11-2-17「ボナパルトは南仏（なんふつ：ミディ）では忌（い）み嫌われております。1-11-2-18で、もし彼が南仏のほうへはいりこみましたら、わけなくプロバンスとラングドックを起ちあがらせ、彼に当たらせることができると思います」。1-11-2-19「そう、それはもちろん」と、総監は言った。1-11-2-20「ところが、彼はガップとシストロンを通って進んでおります」。 1-11-2-21「進んでいる、進んでいる」と、ルイ十八世は言った」。1-11-2-22「では、彼はパリを指して進んでいるのか？」。1-11-2-23総監は押し黙っていた。1-11-2-24それだけでじゅうぶんその事実を裏書したことになるのだった。1-11-2-25「ドーフィネはどうだ？」と、王はビルフォールにたずねた。1-11-2-26「あれもプロバンス同様起ちあがらせることができると思うか？」。1-11-2-27「陛下、残念ながら、不幸な事実を申しあげなければなりません。1-11-2-28ドーフィネの人心は、プロバンス、ラングドックの人心とぜんぜん比較できません。1-11-2-29あの山国の人民どもは、すべてボナパルト方でございます」。 1-11-2-30「やれやれ、」と、ルイ十八世はつぶやいた。1-11-2-31「やつめ、ちゃんとそれを知り抜いていたのだ。1-11-2-32そして、やつには、いったいどれくらいの同勢がいるのだ？」。

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引用者：2016/6/8　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書