１１（１）皇帝フランスに再上陸

1-11-1-1ルイ十八世は、あわただしい総監（そうかん）の顔を見るなり、手荒く前にあったテーブルを押しやって、「男爵（だんしゃく）、どうした？」と叫んだ。1-11-1-2「とてもあわてているじゃないか。1-11-1-3あわてふためいているのは、ブラスカ君が知らせにきたこと、さらにビルフォール君によってたしかめられた話に関係があるのかな？」。1-11-1-4いっぽうブラスカ氏は、勢いこんで男爵のほうへ歩みよった。 1-11-1-5だが、廷臣（ていしん）としての恐怖の気持は、この政治家の誇りを傷つけることをためらっていた。1-11-1-6事実こうした場合の彼としては、こうした事件で警視（けいし）総監（そうかん）に恥をかかせるよりも、むしろ総監にやりこめられているほうが得なのだった。 1-11-1-7「陛下（へいか）・・・」と、男爵（だんしゃく）はつぶやいた。1-11-1-8「どうしたのだ！」と、ルイ十八世が言った。1-11-1-9総監は、絶望の気持をあらわさずにはいられないで、ガバと王の足もとにひれ伏した。1-11-1-10と、王は眉（まゆ）をひそめて一歩後に身を引きながら、「話したまえ」と、言った。1-11-1-11「おお、陛下（へいか）！なんという恐ろしいことでございましょう！1-11-1-12わたくしはなんというみじめな男でございましょう！1-11-1-13とりかえしがつかないのでございます！」。 1-11-1-14「総監」と、ルイ十八世は言った。1-11-1-15「命令する。話したまえ」。1-11-1-16「陛下、申し上げます。1-11-1-17ボナパルトは二月二十八日にエルバ島を抜け出して、三月一日に上陸いたしました」。1-11-1-18「どこへ？」と王は気色（きしょく）ばんでたずねた。 1-11-1-19「フランスでございます。1-11-1-20アンティブ附近、ジュアン湾の小さな港でございます」。1-11-1-21「ボナパルトがフランスに来て、アンティブ附近、ジュアン湾、パリから二百五十里（１０００Km)の地点にこの三月に上陸した！1-11-1-22その知らせを、君はようやく今日、三月三日になって受け取ったといわれるのか！1-11-1-23・・・・君、そんなことは有りえない。1-11-1-24報告がちがっているのだろう。1-11-1-25でなければ、君自身気が違ってでもいるのじゃないか」。 1-11-1-26「不幸にして陛下、ほんとうのことなのでございます！」。1-11-1-27ルイ十八世は、憤怒と恐怖にかられるままに、なんとも言えないようすをした。1-11-1-28そして、同時に胸と顔とを突然打たれたとでもいうように、すっくと席から立ち上がった。1-11-1-29「フランスにきた！」と王は叫んだ。

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引用者：2016/6/8　（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
通称「オリジナル教会」　初代代表者　笹倉正義
ささくら修道会・必読書