１．核物質取り扱い事故

「朝に命じてみよ」パールバック 原題：Ｃｏｍｍａｎｄ　ｔｈｅ　Ｍｏｒｎｉｎｇ 原作者：Pearl Sydenstricker Buck 日本語訳本名：「神の火を制御せよ」原爆をつくった人々 丸田浩　監修 小林政子　訳 径書房

（P２６３） ボブがあごをしゃくり、スティーブは部屋を出た。三十分後、スティーブが科学者たちと会議を進めながらバートを待っていたとき、机の上の電話が鳴った。彼はしゃべりながら電話に出た。「十日以内には一回目の実験が行えるはず・・・」。彼はそのまま押し黙った。ジェーンの声だった。どこにいるのだろう。このところしばらく彼女の顔を見ていなかった。この会議に来るかと期待したが現れず、彼もあえて問い合わせなかった。「スティーブ？」。「そうだ」。「事故があったの。ひどい事故よ。ディック・フェルドマンよ」。「それで？」。「若い科学者の一人に実験方法を説明していたときに手が滑ったの。二つのウラン燃料が触れ合って（核分裂が持続する）臨界質量になったの」。「なんということを！」。「一緒にいた二人を救おうとしてディックが両手でそれをそれを散らしたの。彼は重症よ。彼の前にいた者も負傷して、もう一人は途中で逃げたわ。ディックは病院。わたしは彼に付き添うことにしたわ。それで会議に出られないことを知らせたかったの。最後まで付き添うわ」。「ということは・・・」。「ディックはもたないわ。家族もいないの」。ジェーンは電話を切り、スティーブは会議の出席者のほうに顔を向けた。 放射線被爆の恐怖 「ということは」。「二、三日ね」。「つまり」。「終りよ。体の前半分は全部焼けて、両手の痛みが徐々にひどくなってきている」。「ほかの二人はどうなの？」。「走って逃げた人は問題なし。もう一人は、頭の片側の毛髪は抜け落ちるでしょうし、数ヶ月間はひげそりの必要がないわ。でも、治療で元気になるでしょう。子供をつくれないかもしれないけど。私にはわからない」。「そいつに子供はいるのかな」。「本人にも奥さんにもよかったわ。彼に歯のことを聞いてみなければならないわね」。「歯だって？」。「そうよ。歯に詰め物があれば、それが放射能を帯びて歯ぐきが焼かれてしまうのよ」。「歯を抜くの」「なぜ、君はそんなに詳しいんだ」。「ラットで放射線の研究をしていたのよ。恐ろしいわ。これからディック・フェルドマンは・・・どうなると思う？」。二人は正面玄関まで来た。 （中略） P268 被爆者の症状 「助かる望みはまったくないのか」スティーブはそっと尋ねた。「望みですって？衰弱していくだけよ。巨大な火ぶくれができて破れるでしょう。皮膚がむけて壊疽にもなる。体に入った放射性粒子が身体を焼き尽くす。体温が上がり、白血球が減り、骨髄も燃える。最後は意識がなくなるわ」。「何もかも知っているんだな」。「彼を一人にしておけないわ。私は最後まで付き添うつもり。ほかに誰もいないのよ」。二人は堅く手を握り合った。スティーブはもう片方の手を彼女の手に重ねた。「ジェーン、君と一緒にいたいんだが、できない。実験の日時が決まった。いよいよ『ゼロ』だ。行かなくちゃ」。「そうね」。互に見つめ合い、分かれた。

こんな物で爆弾を造っていることを何とも思わないのか？と思う。その取り扱いを間違えたら自らを滅ぼす爆弾を、軍が戦線で武器として使うはずはなく、それを敵の都市上空で爆発させるだろうことは、科学者なら分かったはずだ。また、科学者はウサギで放射能実験をしてその恐怖を体感したが、軍は敵の都市の住人をこのうさぎにして、その恐怖を体感するに違いない。人類史上初めての体験、とりわけ他人の身体に引き起こされる恐怖を見たい誘惑とはそういうものではないのだろうか。自分たちの安全が保証されている限り。

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2013/2/22 聖母マリヤ福音教会・「取説」担当　笹倉正義 2022/1/22 聖句引用：日本聖書協会　口語訳聖書 旧約聖書（１９５５年改訳） 新約聖書（１９５４年改訳）