（巻七）魂(たましい)の王国

七巻　五　ヨルダン川のほとり ナザレ人の右手の杖は徐々にさがり、見知らぬ男をさした。バルタザールもベン・ハーも、その男を見つめた。何かをまじめに瞑想している人にありがちな、落ちついた、静かな足どりで歩いている。背は少し高いほうで、ほっそりしており、少し華奢でさえあった。袖のひろい、足くびまでとどく白麻の衣をまとい、その上にタリスと呼ばれる上着をはおっている。やや赤みをおびた金髪をまん中からわけていた。暗灰色のおだやかな目。長いまつ毛。知恵と愛、同情と悲しみにみちた誰の心でもとらえる、信頼の寄せられる顔−−−言わば、罪なき魂が、罪にまみれた者に出会い、それを理解しなければならない宿命を負うた顔であった。 男は静かに三人のほうに近づいてきた。その目は、槍を持ってウマに跨っているベン・ハーへでも、イラスへでもなく、バルタザールに注がれている。ナザレ人は、依然として杖で男をさしていたが、そのとき大きな声で叫んだ。「見よ、神の小羊を、世の罪をとり去る神の小羊を！」

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2015/8/30 オリジナル教会（初代代表）　笹倉正義
正式名称：（笹倉宗）聖母マリヤ福音教会
2019/11/16（ロゴ変更）